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第56話 決別

〈side小雪〉


 先ほど私は彼にすべてを思い出させてしまった。まだ、これでよかったのかという考えが頭をよぎる。

 それでも、告げてしまったことなのだ。過ぎたことになったのだ。ゆえにもう変えることはできない。これでどんな結果になろうとも、私はそれを受け入れなくちゃいけない。わかっていた、そんなことは。それでも体が震える。いまだに頭の中は真っ白なままだ。何を言ったのか、今言ったばかりなのに思い出せない。

 そして今から、私は拒絶されるか、許されるかする。それも拒絶されるほうが可能性は高いだろう。何せ、彼の生きてきた意味を一時的とはいえ否定したようなものなのだから。

 そして、彼の答えは⋯⋯。


「⋯⋯あぁ、そうか」


 彼は一言呟いた。それから、数秒の間が開いたのちに、


「もう、二度と顔を見せるな」


と私に一言告げて、その場を去っていった。荷物をもって出ていったため、もう二度とここに帰ってくるつもりはないのだろう。

 ドアの閉まる音が部屋に響く。その音を聞いた途端、私は膝から崩れ落ちた。覚悟はしていたつもりだった。それでも、それでもとても耐えられるものではなかった。胸が痛い。完全に関係を切ろうとする意志を彼の言葉から感じ取ってしまって、それで、私は何をすればいいのか、分からなくなってしまって、そして、何かをするような気力ももう残っちゃいなくて、私はそのまま呆然とすることしかできなかった。

 かつて暴行を受け続けていたころの私に逆戻りしたような感覚に襲われる。あの頃も、特に生きる意味もなく過ごしていた。夢だってなかった。そんな私にも彼に救われて生きる意味を見つけられた。初めは人を助けることだと思っていた。けど、今になって分かった。確かに人の役に立ちたいという面もあった。でも、それ以上に私は彼の隣に居たかったのだ。

 私を助けてくれたからというのももちろんあるが、いつもぶっきらぼうに見えて人に気を使っていて、私をいつも助けてくれていた。そんな彼に私が引かれていったのも当然と言えるだろう。

 そんな彼との縁を私は自ら切ってしまった。こうなることは分かっていた。その結果、私の居場所でもあった場所を、彼の隣を失ってしまった。

 あぁ、これからどうしよう。あの時のように死んでしまいたいという感情に支配されそうになる。でも、きっとそれは駄目だ。死んでしまっても何にもならない。結局これは私の選んだ道なのだ。それに、裏切者とはいえ元仲間が死んでしまったとなれば、流石の彼もいや、優しい彼だからこそ悲しんでしまうだろう。これ以上、彼の足かせにはなりたくない。

 そんな自己中心的な考えに基づいて私はまた、空虚な日々に戻るのだった。




〈side刹那〉


 小雪から話を聞いてまず思い浮かんだ感情は、困惑だった。小雪がなぜ黙っていたのか分からなかった。もちろん、ふざけるなと思わなかったわけではなかった。でも、それにはきっと理由があるはずだと、そんなことを思ってしまっていた。

 だから僕は考えた。考えて出した結論というのは、小雪は戦いたくはないのではないかということだった。なんだかんだ小雪は優しい。だから、人を殺すことはしんどかったのではないかと思ってしまった。

 でも、だからと言って、復讐をやめようとは思わなかった。そもそも、考えてみれば無関係の小雪を復讐に巻き込んでしまっていいのか?彼女は優しい。そして純粋だ。そんな子を僕の都合で巻き込んでいいのか?

 そうだ。結局これは僕の問題なのだ。だから、だからこそ僕は彼女を拒絶しなければならない。

 だから、心に修羅を、これまでの関係に終止符を打つしかないのである。

 そう決めて、僕は小雪に何かを告げたとは思うのだが、正直覚えていない。適当にその場で思いついた言葉で小雪と決別したのである。

 デラクアの街を歩く。そのまま僕は歩き続ける。もう能力自体は手に入れているのだ。あの村で見つけた祠。あれと出会うこと、もしくはほかの能力者から受け継ぐこと。それが能力者へと変わる方法だ。

 目的地なんてものは決まっている。僕が初めにこの世界に来た場所。あの森の中。そこにまだゲートが残っているはずだ。あのゲートはかなり特殊なもので、基本は視認できない。そこにあるのだと認識することでようやく知覚できるようになる。

 そうして僕は、歩いて、歩いて、歩いて、やがて僕は初めてこの世界に来た場所にたどり着く。ここに来るまで特に何事もなく辿り着くことができた。誰か監視をしているのかと思っていたが、そんなことはなかったようだ。それならそれで問題はない。むしろ楽で助かる。

 その辺りを探してみると、その扉を見つけることができた。存在を知っていないと認識すら不可能な扉。この扉が世界につながる扉。きっとここを通ってこの世界にやってきた。僕は意識を失って倒れていた。挙句、記憶まで失っているときた。今はもう記憶は戻っているのだが⋯⋯。

 さて、誰かに見つかる前に早くこの世界を去ることにしよう。この扉をくぐった先が、元の世界だ。


すれ違う心⋯⋯。

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