第55話 告白
55話が抜けた⋯⋯。本当に申し訳ないです。
〈side小雪〉
「はぁーふぅ」
私は宿の部屋の前で深呼吸する。今から彼に話そうと思うからだ。決心したとしても緊張しないわけじゃない。それに恐怖心だってかなりある。これから、私はどうなるのだろう?やっぱり私は彼の隣にいることはできないのだろうか?いや、でも、それでもいい。それでもいいと、そう決心したはずだ。
今になって、迷いも出てくる。これなら、ミナさんも呼んでおいたらよかっただろうか⋯⋯。あぁ!そんなこと考えたって仕方ないでしょ、私。それに呼んだとしたら、彼女まで彼と関係を絶たなければならなくなるかもしれない。私のせいで、彼にできた繋がりを切ることはあっちゃいけない。
「⋯⋯うぅ」
ドアノブを持つ手が思わず震える。
「ふぅー」
手を放し再度深呼吸する。こんなものは時間稼ぎにしかならない。そんなことは分かっている。
再度、手を伸ばして、ドアノブに手をかける。まだ、手は震えている。
もう一度、大きく息を吸って吐く。少しずつ震えが落ち着いてくる。頭もゆっくりと冴えてくる。
ドアノブを捻って、ドアを押し開ける。
「お、帰ってきたか、お帰り」
彼は私に、そんな挨拶をかけてくる。まだ、緊張しているのか私はうまく言葉が出てこない。
「⋯⋯どうかしたか?」
そんな様子を見かねてか心配そうに彼が声をかけてくる。昔の彼はこんな声をかけてくれるような人ではなかった。もっと、生き急いでるようなそんなイメージだった。こんな生活をしているほうが幸せなのではないだろうか?あぁ、でも、忘れていいことではないのだ。だから話さないと⋯⋯。
「⋯⋯大丈夫」
それでも口に出た言葉はそんな言葉だった。
「そうか?⋯⋯ならいいが」
彼はまだ、心配そうにしている。
思わず深呼吸をしてしまいそうになるが、何とかそれをこらえる。
「⋯⋯体調悪いなら寝てていいぞ」
無理にこらえたのが表情に出たのか、そんなことを言われた。
うっ、もう言うしか、言うしかじゃない。言わないといけないのだ。
「⋯⋯えっと⋯⋯話がある」
いきなり本題を話すような勇気は持ち合わせていなかった。
「疲れてるんだろ?明日聞くから今日は休めよ」
今までが挙動不審だったせいか、そう言われてしまった。その言葉に甘えてしまいそうになるが、それもこらえる。
「⋯⋯今から話す」
それでも本題に入れないのだけれど。
「そうか⋯⋯無理はするなよ」
まだ心配するの?と、そんなことを思えるようにもなってきたので、少しずつ落ち着いては来ているのだと思う。
「まず⋯⋯えっと⋯⋯」
話すことを決めたはいいものの、どこから話すのか考えていなかった。
考えれば考えるほどに頭がこんがらがってくる。
うぅ⋯⋯。何から言い始めるべきか⋯⋯。私と彼が同郷だということを言おう。そうしよう。
「⋯⋯刹那はたぶん私と同じ世界から来た」
多分ってなんだ?いったい。
それを聞いた彼は黙っている。そもそも、簡単に信じてもらえるはずないか⋯⋯。
「⋯⋯私も地球の日本から来た」
かなり深い関係にあった、みたいなことは言えなかった。どうせ思い出したら分かることではあるのだけど。
「⋯⋯ん?僕のいた国じゃ、基本黒髪だったと思うが⋯⋯」
確かにそうだ。アルビノでもないのにもかかわらず、白い髪をしている私が珍しいのだから。おかげで殴られ蹴られの日々を過ごすことになった。
「⋯⋯私が珍しいだけ⋯⋯。だから、差別されていた」
自分で暴力を振るわれていたなんてことを言うことはできなかったため、差別なんて言葉で濁した。
「⋯⋯そうか」
「そもそも、この世界じゃあ白い髪は珍しくないらしいから差別なんてされないはず」
時折、髪の白い人が歩いているのを見たと思う。
その後の言葉を続けようとして、また詰まった。私と彼の関係を話さないとすべてのことを伝えられない。なんで、私と同郷なだけ、みたいな言い方をしてしまったのだろう。
「そして、私と刹那は地球で会っている」
結局無理やりにつなげた。
「いや、記憶にないんだが⋯⋯」
彼はそう呟いて考えこんでいる。
「⋯⋯多分、来る前の年齢と今の体付きは違うはず」
ここは推測になる。おそらく、組織時代の記憶がないなら、もう少し若い見た目になっているはずだ。今も十分若いけど。
「そして、刹那の能力も地球にいたころからあったもの」
「僕の世界に能力はなかったぞ」
能力が現れる前、いや両親を失う前の記憶しかないということだろう。忘れられるならそこから忘れるというのも理解できる。記憶喪失を操作できるのかは分からないけど。
「多分、記憶がないのは能力が現れてから」
このことを告げてしまうと、間違いなく思い出せるだろう。ここにきて迷いが生じてしまう。でも、話さないと、ここまで話して話さないというのもおかしな話だ。
「能力が現れる直前、刹那は両親を失った」
完全に言ってしまった。これでよかったのだろうか。頭が真っ白になっていくのを感じる。
「⋯⋯っ、質の悪い冗談ならやめろ」
彼はそんなことを言い放つ。
「⋯⋯もう、わかってるはず。嘘をつく理由がない」
私に利はないはず⋯⋯。
しばらく、彼は頭を抱えていたが、ふと頭を上げた。
そして、私に目を向ける。その目はすでに昔の彼のものに戻っていた⋯⋯。