第54話 決心
〈side小雪〉
私は彼と別れ、今日もまた一人歩いていた。昨日も刹那を置いてミナさんのところへ行っていたし、私の行動って奴隷としてどうなんだろ?そう考えつつ、私は歩を進める。
しばらく歩いていると、ベンチを見つけた。私はそこに腰を下ろす。
さて、まあ分かっているとは思うけど彼に真実を告げるかどうかについて考えたくて、一人で適当にデラクアを歩いていた。最近はずっとこのことを考えている。結局、何かわかることはないのだけど⋯⋯。
伝えるほうがきっと彼の力も戻ってこの世界でも生きやすくなるだろう。でも、話したらもうこの世界にいることはないのだろうけど⋯⋯。
話さないとしても、あの男がこちらの世界に帰ってこないとは限らない。そこで、思い出してしまうのかもしれない。それに、この世界自体が危険でもある。それは、文化の違いもあるが、この世界について分からないことだらけという点だ。元の世界でも、別の能力のある世界という点以外全く分からなかった。
能力を得る方法は推測にはなるけど、一つはほかの人間から受け取ること。ミナさんがこのタイプだ。もう一つが、能力の祭壇を見つけること。ランダムに表れる祠を見つけることができれば⋯⋯といった感じだと思う。私はこのタイプだ。初めの森であの獣から逃げ回っていたときに見つけた記憶がある。そのままスルーして駆け抜けたが⋯⋯。改めてその場に行っても何もなかったため、能力に関わるものだろうという推測だ。
結局、考えてみると話すことのほうがいいに決まっているのだけど⋯⋯。それを拒否している自分がいる。その理由も分からない。彼と離れさせられるかもしれない恐怖はもちろんあるけどそれではないような気がする。
ほかに何が考えられるだろうか?伝えることのデメリット⋯⋯。おそらく、話すと彼は復讐にとらわれるだろう。それが嫌なのか⋯⋯。それも違う気がする。そもそも、復讐することが悪だとは思えない。世界が変わる前なら駄目だという倫理観があったらしいけど、その当時でも、殴られたり蹴られたりしていたのが私なのだから、別にそんな倫理観は持ち合わせていない。
結局、なぜ話したくないのか?それが分からない。ただ、話さない理由づけに過ぎないのかもしれない。そう思うことにしようか⋯⋯。
私がそこまで考えると、
「やあ、お嬢ちゃん、こんなところで何してるのかな?」
そんなことを言いながらにやにやとした表情を浮かべて、数人の男が私に近づいてきた。
いや、え?何しに来たの?あ!もしかしてベンチに座りたいとか?
などと、私は全く見当外れなことを考えていた。でも、まともな教育も受けずに時折耳に入ってくる程度の性知識しかない私では当然ともいえた。
そんなことを考えた私は、そのベンチから立ちその場を後にしようとする。
「なあ、どこに行こうとしているのかなぁ?」
それなのに関わらず、男たちは私の前に立ちふさがる。
えっと、なんだろ?ベンチ座るのにもお金がいるのかな?
私が黙ってそんなことを考えていると、
「おい!黙ってんじゃねぇ」
そんなことを言いながら殴りかかってきた。なぜか顔を避けるような殴り方だ。攻撃するなら弱点でもある顔をつぶすものではないだろうか。目くらましにもなって戦闘にはよいと思うけど⋯⋯。四肢を狙うにしても武器なしじゃ意味もない。私ならいくらか殴られるくらいじゃあすぐに治すことができる。
またも、私は見当外れなことを考えていた。実際は、小雪がかわいい顔をしているので顔を殴るとそのあとが面白くないという考えからきている。
殴りかかってくる拳を軽く躱して、懐からナイフを取り出す。
暴力行為まで出てようやく小雪に敵だと認識されたらしい。
そのまま、男の利き手だと思われる腕の腱を切断する。きっと、この男はもうこの世界で生きていくことは難しいだろう。治癒魔法がなければの話だけど⋯⋯。
「まだ続ける?」
私は周りにいる男たちにそう言い放つ。私は腱を切っただけなので、それだけでは周りの男も脅威だとはわからなかったようで、
「少し傷つけただけでいい気になるなよ!」
そんなことを言いながら剣を抜いた。煽られただけで剣を抜いたこの男たちの程度は知れているだろう。
切りかかってくる剣を軽くいなしつつ、男たちの腱を切断していく。世界で生きていけなくなる人間が増えていく。
そのまま、男たちは引き際を失って、全員が二度とものを握ることのできない体になった。地球に行くことができれば治療できるだろう。そもそもこの男たちは地球の存在自体知らないのだけど。治癒魔法を使ってもらえるだけの金を集めることもできないだろう。
私は、そいつらを置いてその場を後にすることにした。いきなり喧嘩を売ってきたのだからまあいいだろう。後で、衛兵がいるのかは分からないがいたら報告しておこうと思う。奴隷の台詞を信用してくれるのかな?まあその時は刹那に頼ろうと思う。
でも、こんな奴らがうろうろしているような世界か⋯⋯。こいつらは弱かったが私以上の強さのある人もいるのかもしれない。やっぱり話すべきだろうな。
と、そう決心しながらその場を後にするのだった。
なんだか短く感じるかもしれないけど、文字数的には同じくらいだからね⋯⋯。