第53話 また日常に戻る
「ん⋯⋯」
しばらくすると、小雪はそんな声を上げて目を覚ました。
僕は小雪の意識がはっきりしないうちにそばから離れる。
僕がいたことには気付いていないようで、
「⋯⋯おはよ」
と、挨拶された。
「あぁ、おはよう」
僕はそう挨拶を返した。
その後、数十秒小雪はぼーっとしていた。今まで気にしてはいなかったが小雪は朝に弱いらしい。
「⋯⋯着替えるから、出て」
数十秒後、小雪は僕を追い出した。僕はもう着替え終わっている。しばらくして、着替え終わった小雪が声をかけてきたため、僕は再度部屋へと入った。
小雪は着替え終わっており、いつもの服装に変わっていた。
「⋯⋯」
小雪は僕が入ってきてもぼーっとしているようだった。まだ眠いのだろうか。
また、しばらくして、
「⋯⋯朝食食べに行こ」
と僕に声をかけてくる。本来、それは僕が言うべき立場な気がする。いや、悪いわけじゃないんだけど⋯⋯。
「分かった」
僕はそんな内心を隠しつつ、そう返した。
その後僕らは、下の階に降りて朝食を食べた。やはりそこまでおいしくはないので、いつかキッチンのある家でも買いたい。ふと思っただけなので買う予定はないのだけど⋯⋯。
その後は、ギルドに向かい、適当な依頼を受ける。
「小雪はついてくるか?」
後ろについてきていた小雪に聞いてみる。正直、小雪が居なくても依頼の完了は可能だ。居てくれたほうが格段に楽ではあるのだが⋯⋯。
「ん」
小雪はそう返しつつ頷いた。今日の小雪はなんだかいつもに増して無口な気がするのだが気のせいだろうか。夜寝顔を見ていたのがばれているのだろうか。
そんなことを考えつつ、依頼の達成のために森の中に入った。今回受けた依頼は討伐依頼で、森の中でイノシシのような魔物を討伐することが目標になる。この依頼だけで、報酬は多く一週間くらいは暮らせる。イノシシを討伐できる人間は割と少ないということだろう。基本的には薬草採取やスライムや狼の討伐だけで生きていく冒険者が多い。むしろ、人の少ない地域ではイノシシなどが現れたときは領主の兵士が動くことが多い。小説世界のように冒険者は危険な依頼を受けることは少ないのだ。以前現れた、ロックバードなんてのは滅多に現れないが国が動くことになる。
しばらく歩いていると、突然僕らのところへ地球のイノシシよりも一回り大きいイノシシが迫ってきた。せめて声を上げてきてくれないかな?少しびっくりするから。
僕が驚いて硬直している中、小雪はナイフを投げ、イノシシの目をつぶした。間違いなく僕よりも投擲の技術は上だと思う。
イノシシはそれに怒りを抱いてか僕らのほうへと再度向かってくる。先ほどよりも速度は速い。僕が、ナイフを取り出して、イノシシを攻撃しようとする。しかし、すでに小雪がイノシシのほうへと向かって行っており、手に持ったナイフで足を切りつけつつ、突進を躱す。
足を傷つけられたイノシシはもう走れないようで、僕のほうへと先ほどの勢いのままに滑ってくる。僕もそれを躱して、攻撃を当てようと試みるが、僕よりも先に小雪が攻撃を仕掛けていた。自分の位置を戻して攻撃を仕掛けたのだろう。
結局、僕の出番はないままイノシシは力尽きたようだった。しかも、目立った損傷のある部位は頭部だけで、戦闘スキルが僕よりも遥かに高いことを示している。この戦闘能力で独学というのは信じられない。誰か小雪に戦闘技術を伝えた人間がいると考えるほうが自然だ。やはり、小雪はいろいろと隠していることがあるだろう。
だからといって、無理に聞き出そうとはしないが⋯⋯。聞かれたくないことだってあるだろう。どうしても、という状況でなければ聞き出そうとは考えていない。
「⋯⋯終わった」
僕がそんなことを考えていると小雪がそう声をかけてきた。
イノシシのほうに目を向けると、おそらく血抜きをしているであろう姿でつるされていた。一応言っておくが、僕には解体の知識がないのであんな状態にはできない。というか、小雪にもなかったような記憶があるのだが⋯⋯。以前は解体なんてできていなかったような気がする。こっそり覚えたのだろうか?
僕らは、その場でしばらく待機して血が落ちなくなったころにそれを魔法鞄に入れる。今考えたら、この魔法鞄も異常だと言える。そして、以前ミナが『魔道具』の能力者が作ったと言っていたが、それは『もの』の能力と言えるのか微妙なラインな気がする。そう考えると、魔法の存在自体がおかしいともいえる。魔力を使用して現象を発生させるといえるだろう。その力が人間一人から何度も生み出せるというのは違和感しかない。
このファンタジー世界には秘密があるのかもしれない。ただ、僕の世界を基準に考えているからそれが異常だとは言い切れないのだが。異世界から見れば、地球の物理法則がおかしいのかもしれないのだ。一概に判断はできないだろう。
考えたって分からないので僕は思考をやめ、
「じゃあ、帰ろうか」
小雪に声をかけ、その場を後にすることにした。
その後、僕はデラクアに戻ってきた。小雪は、今日もまた、どこかへと行ってしまった。悪いというわけではないが、ここまで主人と離れる奴隷も珍しいだろう。僕は嫌われているのだろうか?
そんなことを思いつつ、宿の椅子に腰を下ろすのだった。
タイトルが思いつかなかったのだ⋯⋯。