第50話 迷い
とうとう50話です⋯⋯。ここまで続けられるとは思っていなかったので正直驚いています⋯⋯。
〈side小雪〉
結局、私の知っている限りの情報はミナさんに伝えてしまった。これだけで気が楽になってしまうなんて、と思ってしまう。いや、内心では分かっていたのかもしれない。言ってしまえば楽になるなんてことは⋯⋯。でも、結局傷つくのは私なんだろな⋯⋯。
そんなことを考えながら、森の中の小屋へと戻る。そして、布団へと潜り込む。それでも、眠れるわけもなく、思考に耽ってしまう。
彼に伝えないことがどうなるかなんて分かりきってはいる。拒絶、されるのだろう。それはそうだ。彼に復讐のことを忘れさせて、幸せなままにしていたのだから。復讐が生きる意味だった人間からそれを奪ったのは私だ。そんな私が許されるなんて思っちゃいない。
でも、そうならなければいいな、と考えてしまう私もいる。いつものように苦笑を浮かべて、いいよと言ってくれないかと思ってしまう。それはあり得ないことなんだと分かっていても、それを願ってしまう。いつか私の嘘がばれる日が来るのだろうか。もういっそ、このままこの世界で一生過ごしてしまえたらなんても思ってしまう。
私の能力なら、忘れた状態を維持できるだろうか?思い出しても、忘れたころに戻してしまえば⋯⋯。あぁ、そうすればいいかもしれない。そうできるだけの力があるのだから。
とは考えてみたものの、それじゃ駄目だとも理解している。私にとってはいいのかもしれないけど、それはきっと彼にとって良いことではない。過去は過去で乗り越えなければならないのだ⋯⋯。
ここまで考えてふと思った。私は復讐が悪だと考えているのだろうか?確かに復讐は人殺しで一般的には悪だろう。でも、殺さないといけない人間もいる。能力なんてものがなくてすべての人間が平等ならば必要はないだろうが、今は能力があって一定の人間が力を持つ世界だ。殺さなければ簡単に悪人はまた同じことを繰り返す。能力さえあれば、それだけの地位に上がることは簡単だから。
だったら、私はなんで彼が復讐を成し遂げることを否定したいのだろう⋯⋯。
〈side刹那〉
一夜明け、僕らはデラクアへと戻ってきていた。そして、内容が内容のため報告を行っていた。
「つまり、あの組織は刹那の世界から来た可能性が高いと」
「そういうことになりそうね」
ミナはそう言ってため息をつく。
「なぁ、これってどう扱えばいいと思う?」
僕に目を向けてギルドマスターはそう声をかけてくる。
「どうとは?」
「異世界人は外人として扱えばいいのかって話だ」
知らんがな。こちらの世界の法を知らないと何とも言えねぇよ。
「普段ならどう扱うんだ?」
「そうだな。相手が要人でなければこちらの国の法に従ってだな」
相手が要人であるかはどうやって判断するんだ、と思いつつ、僕は言葉を返す。
「まあ、こっちの国の法律に則ったらいいんじゃないか?あちら側では行方不明事件とされるだけだろうし」
「そうか、分かった。そういう風に処理しとく」
その後もいくつかの報告を終えてから僕らは宿に戻った。ミナとは別れている。昼食でもと誘われたが、小雪が寝不足気味な顔色だったためそれを断ったのだが、小雪は少し出かけると言って出て行ってしまった。
結果、僕は宿で一人過ごすことになるのだった。
〈side小雪〉
私は刹那と別れて、街、デラクアだっけ?を歩いていた。もちろん目的はある。
ミナさんとまた少し話そうと思ったからだ。昨日までは誰かに話そうなんて考えていなかったのにな、と考えつつ歩を進める。
ミナさんは案外すぐに見つかった。ギルドのそばを歩いていた。そういえば、昼食に誘われていたな、なんで断ったんだろ。
「ん?小雪ちゃん?どうかしたの?」
私の姿を見て、ミナさんは私に声をかけてくる。
「⋯⋯刹那はいないのね」
ミナさんはあたりを見回してから、そう言った。
「だったら、あっちの件と⋯⋯」
「ん」
それに私は頷く。
「んー、とりあえず私の家にでも来る?」
そして私たちはミナさんの家にやってきていた。
「とりあえず、はい、お茶」
ミナさんは私にコップを手渡す。
その後、自分の持つお茶を一口飲み、
「刹那に言うべきかっていう話だっけ?」
私にそう声をかける。私はそれに首肯する。
「そう⋯⋯まず小雪ちゃんはどう思ってるの?」
「⋯⋯分からない⋯⋯。今のほうが幸せなのは分かるけど、過去をないものにするのもよくない気がする」
「じゃあ、小雪ちゃんはどうしたい?」
私はどうしたいか、か。忘れられているのは辛いけどそこまででもない⋯⋯。だったら、私はどうしたいのか⋯⋯。
「⋯⋯多分刹那が幸せだったらいい」
笑って過ごしてほしい。多分私はそう思っている。
「そうね⋯⋯。小雪ちゃんは刹那にぞっこんだもんね」
「⋯⋯そんなこと!」
思わず声が出る。そもそも、私が刹那にぞっこんだろうが関係ないでしょ。
そんな私の様子を見て、ミナさんは口を押えて笑っている。
「ふふ。刹那は愛されてるねぇ」
多分、私の顔は真っ赤になっていると思う。
「まあ、これは置いておいて」
と前置きして、ミナさんはようやく本題に入ってくれるのだった。
かなり、きりの悪いところで切ってしまった⋯⋯。