第49話 刹那 過去9
〈side刹那―過去―〉
その後は、特に何事もなく任務は完了できた。つまり今は僕らの組織に戻ってきている。そして、僕らはボスに報告をしていた。
「⋯⋯なるほどな。今回の依頼でお前に関わる情報が入ってきたと⋯⋯。偶然にしてはできすぎじゃないか?」
それは確かにその通りだ。ここまで僕の家での火災の情報が見つかるのはおかしい。
「『皇家』か⋯⋯。ここまでくるとそれを調べておいたほうがよさそうだな」
僕の両親に何か秘密があったということだろうか?それも、命が狙われるような。
これは、僕のほうでもさらに深く調べておいたほうがよさそうだな⋯⋯。
その時の僕はそんなことを考えていた。
「ひとまず、この話は置いておこう」
ボスはそう前置きして、言った。
「で、だ。小雪は何の問題もなかったか?」
今回の任務は小雪に経験を積ませることが目的であったからそこも気にしなければいけないのか。
「⋯⋯あぁ。問題はなかったと思う」
少し、今回の任務を思い返しつつそう言葉を返した。
実際、今回の任務では小雪の感覚や能力にはかなり助けられた。
「そうか⋯⋯。小雪自身は問題ないか?」
次に、僕から視線を外し、小雪に目を向けそう質問する。
「⋯⋯だ、大丈夫です」
ボスとの会話にまだ慣れないのだろう。小雪はしどろもどろになりつつそう返していた。
「そうか。わかった」
ボスもそういう人間を何度も見ているためか、会話に慣れていないだけで、精神に問題はないだろうと判断した。
あまり分からないが、初めて人を殺して精神が壊れた人間はもう少しおかしな状態になっているのだろうと思う。
にしても、小雪は割と簡単に人を殺していたな。ちなみに僕は少しためらいはあったものの、すぐに慣れた。何も思わないわけではないのだが、割り切ることができるようになったといった感じだ。
「後、小雪は無理に敬語を使う必要はないぞ。刹那はもう少し慕ってくれてもいいと思うが」
僕は初めからため口で話していたからな。あの頃は強さを手に入れる一心で生きていたからな。そんなことを気に掛ける余裕はなかった。それと、僕はボスのことは頼れる相手だとは思っているぞ。組織のトップということですべてを話せるとは思っていないが。
「⋯⋯ん。分かった」
小雪が特に何の抵抗もなく口調を変えられるのは知識と感覚があっていないからかな、と他人事のように僕は考えていた。今までまともな生活をしていなかった分、常識も欠如しているのだろうと。
「報告することはもうないな?」
隠すこともないので今回の任務の結果はすべて報告していた。僕の両親のことも、すべて。結果として、小雪にも詳しい内容が知られてしまったがまあ、気にしなくてもいいだろう。
それから1、2年が過ぎ去った。もちろん、僕の両親についても調べはしたのだが、結果は全く情報はなし。能力を試しに使用してみたいだけだったのではないかとも思い始めている。
そんな中、僕と小雪には任務が与えられた。そして、小雪は僕のパートナーとしての立ち位置になっていた。一応、ツーマンセルが基本らしいからな、うちの組織。
で、任務の内容というのが、組織の壊滅。こういう任務、僕に回されすぎだろう、と思わなくもないが、火事の情報が手に入る可能性もあるので感謝してはいる。
この組織というのが、小雪が捕らえられていた組織と似たものであったため、小雪に来るかどうかの確認をとったが、気にしないとのことだった。小雪も強くなったな。そして、僕は今、間違いなく小雪に愛着が湧いてきていると思う。この感情は、どう考えても復讐の邪魔になる。だからこそ邪険に扱いたいと思うのだが、そんなことができるわけがなく⋯⋯思わずため息が漏れそうになる。実際、小雪のせいでできる限り人を殺さずに、気絶でとどめるように変わってしまっているし、僕がやるほうが早いことも、小雪に任せてしまうことが多くなった。
結局、僕は人殺しに向いた性格ではないんだろう。でも、だからと言って復讐をやめるわけでもない。目標は変わらず、両親の死の真相を知ること。殺した組織を壊すこと。その時、きっと僕は小雪を連れていくことはないんだろうな、と思ってしまう。
さて、今は今回の任務についてだ。今回の任務ではまずは人質に取られかねない捕らえられた能力者の解放が第一優先。次に組織についての詳細を調べる。そして、関係者を捕獲する。という流れになりそうだ。
それから数時間後、僕らはその組織に侵入していた。今までもこういう侵入はあったため慣れた手つきで侵入できていたと思う。小雪と目的の確認をした後に、まずは人質の解放。
これはそこまで、苦労することはなかった。能力者も何人か相手として出てきたが、割とあっさり倒すことができた。きちんと訓練は積んでおかないといけないもんだと痛感させられる。
そうして、何事もなく人質も解放し、組織の探索を開始する。情報を写真などに収めつつ移動していく。
僕らはしばらく歩き回り、組織の人間を捕縛していったため、組織はすでに壊滅状態に近いものになっていた。
最終的に、その組織のボスに会うことになる。大物ぶった言動をしていたが、二人でかかればそこまで脅威でもなかった。だからだろう。心のどこかに油断があった。結果、僕はそいつを取り逃がすことになった。
その後は、その組織の資料を集め続け、この組織のボスが逃げた先に関わる情報を手に入れることになる。
その先は『異世界』というものだった。そこには僕らの世界の能力とは異なる能力が存在するようで、おそらくあいつはその能力を手に入れるつもりなのだろうと思う。
そうしてその夜、僕はその組織の中へと再侵入していた。
新しい能力、それを手に入れることはきっと僕の両親を殺した組織をつぶすうえで役に立つだろうという判断からだった。
だから僕はその異世界への扉の前までやってきていたのだが、
「はぁ!?なんでお前がここにいるんだよ」
そこに小雪がいた。思わず、いつもと違うような言葉遣いになってしまう。
こうは聞いてみたものの、僕の考えが読まれたというだけだろう。
「で、止めるのか」
僕は小雪にそう問いかける。目的は知らないが、僕を止めるために組織に言われてきたのだろう、と考えていた。
だが、その返答は僕の予想とは違っていて、
「私も、行く」
と、同行を願い出てきた。
そのあとは、結局小雪も僕に同行することが決定してしまった。
「もういい。好きにしろ」
僕は若干投げやりになりつつ、そうぶっきらぼうに返した。
それでも小雪は僕の後を追ってきて、どこか安心してしまう僕がいたのだった。
とうとう過去編は終了です。長らくお付き合いいただきありがとうございました。この話に少し詰め込みすぎた感はありますが⋯⋯。
ともかく、次回からは異世界での話に戻ります。刹那の記憶はいつ戻るのか、それは作者にも分かりません⋯⋯。