第46話 刹那 過去6
〈side刹那―過去―〉
僕らはその後、雑用系の任務を引き受けつつ日々を過ごした。この組織に寄せられる依頼は危険なものばかりではないので、それらをこなすこともまた別の得るものもあるかもしれないという判断だった。
「さて、頼まれていた任務だがこれはどうだ?」
そして、僕は現在、ボスの部屋に呼ばれてやってきていた。機密事項の場合はこのように部屋にて直接の受け渡し、そして報告となる。表沙汰にはできない依頼ということだ。
そして僕は、渡された紙に目を通す。ちなみにこの紙は伝え終えたらその場で処分される。
そこには、任務内容の詳細が記されている。簡単に言うと、敵組織のアジトに潜入、情報を入手し撤退。という内容で、場合によっては敵の人間は殺害も可とのことだ。こういう任務でこのように書かれている場合、殺すべき相手は確実にいると考えてもいい。それは警備の人間かもしれないし、敵の幹部に近い存在の可能性もある。兎角、僕の頼んだ通りの任務ということだ。
もちろんともに受ける予定の小雪も僕の隣にいるわけで、僕の持つ紙を見ようと身を寄せてくる。仕方なしに僕はその紙を小雪に渡す。
その様子を見ているボスは少々驚いた顔をしているわけだが、僕はそれに気づいていない。
「そろそろいいか?」
数十秒がたった後にボスがそう言った。
「ん」
小雪はそれを聞いて紙を僕に返す。僕はその紙を再度軽く流し読んだ後にボスへと返却する。
それをボスは受け取り、近くの容器に入れ発火させ燃やす。それを見た小雪は少し驚いたような反応を示すが、すぐに証拠隠滅だと気づいたのか、元の無表情に戻る。僕も初めの頃と比べたら小雪の感情も読めるようになってきたな、と思う。
「では、頼んだぞ」
ボスはそう言って話を締める。それを聞いた僕らは退出する。今回の任務で特に疑問点もない為だが⋯⋯。いつもは疑問があればこの場で聞いている。僕以外の人は知らない。
「それじゃあ任務時間までは休憩な」
僕は小雪にそれだけ言って立ち去ろうとする。が、
「⋯⋯一応、任務時の注意を教えて」
と、小雪に引き留められ、結果、僕は講義をする羽目になるのだった。今までに何度か教えたし覚えもよかったはずなのになぁ。そんなことを僕は思ったりもした。
あれから数時間が過ぎ、僕らは組織の前に来ていた。悟られにくくするためにも相手組織の中などで待ち合わせをすることが多いのだが、今回は経験を積ませることが目的だ。そのためこちらの組織にて集合ということになった。もちろん時と場合によるが⋯⋯。まあ、ボスも今回はそこまで危険度の高い任務を選んでいないようだし⋯⋯。その時の僕はそんなことを考えていたが、この任務は僕にとって大きなものとなることを知らなかった。
「⋯⋯遅刻?」
小雪は到着して早々、自分の時計を見ながら呟いた。単純に、僕が早過ぎただけで遅いわけではない。それに、言った集合時間の10分前でもあるのだ。十分というか早い。それに、若干の遅れも想定しての集合時間だったため、結果30分前でもある。その時間前後に来ることが理想とされる。当初は、その時間ギリギリに来る人間が多かったために早めに集合時間を設定するように組織で決められている。小雪にもそれは言っておいたんだが⋯⋯。注意すべきかと考えたが、そこまで気にする必要もないため、
「いや、全然問題ないぞ」
僕はこう返すことにした。
「じゃあ、もう行くとするか」
こちらの組織で集合の場合、道中何があるかわからないので早めに出ることは正しいと言える。まあもちろん、場合にもよるが⋯⋯。
「ん」
小雪はそれだけ答えて僕についてくる。
車を乗り継ぎ、目標の場所にたどり着いた。いくつかの車に分けて移動したのは、相手に察知されるのを防ぐという目的らしいが、効果は不明だ。それよりも、車の運転主に情報が漏れないようにという面の方が大きいと僕は思っている。
今回の目的地は、ビル、工場ときて、森だった。タクシーの運転手が怪訝な顔で僕らを見ていたのが少し印象に残った。
それはそうと、森に作ると情報の共有などをする面で不利ではないのだろうか。情報漏洩の対策を重視したということだろうか?そう考えると、重要な情報が残っているかもしれない。僕にはその情報が重要なものなのかの判断は難しい。そもそも、勝手に見ること自体が規約に違反するのだが⋯⋯。だが、書類などの情報はどう頑張っても全く見ないというのは不可能ではあるし、実際口頭での報告もあるため許容されていると考えられる。本当に知らせたくなければ別で人がつくのだろうと考えている。
と、話がそれすぎたな⋯⋯。ひとまず、僕らはその森へと足を踏み出す。
「ちょっと⋯⋯」
僕が歩いていると、そんな声が後ろから聞こえてきた。声の主は小雪だ。
「どうした?」
僕は振り返り、小雪に目を向ける。
「⋯⋯速い」
小雪は、スカートを履いているからか、早めに歩くことが難しいらしい。
「はぁ、それならそうと早く言ってくれよ」
僕はため息を吐きつつそう言った。
よくよく見ると、少々無理をしていたらしく、服には泥がついている。それに気づかなかった僕も僕だが⋯⋯。
「⋯⋯ごめん」
少し申し訳なさそうにそう言う小雪に僕は
「謝ることじゃない」
と返しつつ、小雪が追いつくのを待つ。
「まあ、次からはスカートを履かないことだな」
「⋯⋯ん」
まあ、森にある組織なんていうのは珍しいから気にしなくてもいいけどな⋯⋯。正直、小雪にズボンとかは似合わない。
そんなことを考えていると、小雪が僕に追いついた。
それを確認した僕は、
「⋯⋯進んで大丈夫か?」
と声をかけ、
「ん」
との返事があってから、再度歩を進め始めた。気持ち遅めに⋯⋯。
なんでこんなに長くなってるんだ?
(予定では3話くらいで終わるはずだった⋯⋯)
44、45話と同様⋯⋯タイトルを変更。