第39話 二つの能力
ちょっと短めですが⋯⋯。
その後僕らは、食堂のような場所にやってきていた。
「かなり広いみたいね。会談か何かに使っていたのかしら」
「どうだろうな⋯⋯。普通の屋敷にもこんな場所はあるだろ」
「いやいや、こんな森の中に屋敷があることがおかしいでしょ!」
「⋯⋯隠れるのにはベスト」
あれ?話がずれてない?
「兎角、それは置いておいて、僕らがここで調べることはあるか?」
「まあ、机の引き出しとかあるかもだし⋯⋯。そこら辺を調べよ」
「それもそうか⋯⋯」
僕には引き出しがあるように見えないんだが⋯⋯。
「⋯⋯確かあのあたりに」
そうつぶやきつつ、小雪が歩いていく。
奥にあったドアを開けて、奥へと向かっていく。
そして、
「あっ」
と言った声が聞こえ、パリーンと何かが割れる音が聞こえてきた。
僕らは、小雪のもとへ向かう。
「ごめん⋯⋯。水晶割っちゃった⋯⋯」
そこには、ガラスの破片らしきものが転がっていた。
「水晶くらいならいいでしょ。素材はガラスみたいだし⋯⋯」
ミナは地面に転がる破片を手に取って、そう言った。
「⋯⋯えっと、能力の判別ができる道具だった」
申し訳なさそうに小雪は言った。
「能力の判別⋯⋯。そんな道具聞いたこともないけど⋯⋯」
あの組織はそんな道具まであると⋯⋯。相手には能力者が多数いると考えたほうがいいかもしれないな。これがノーコストで使えるものなら⋯⋯。
「一応、予備がないか探してみよっか」
そう言って、ミナは立ち上がる。
「ん。わかった」
僕らはそう答えて、辺りを探すことになった。
「見当たらないな⋯⋯」
僕は思わず、ため息をこぼす。
「そうねぇ」
「⋯⋯ごめん」
結局、何も成果はなかった。
「割れちまったものは仕方ないだろ」
「刹那の能力が分かったかもしれない⋯⋯」
僕の能力?『加速』じゃないのか?
「刹那の能力って『加速』じゃなかった?」
ミナも同じことを思ったのか、小雪に質問する。
「私みたいに、二つの能力があるかも」
確かに、小雪は二つの能力が備わっているのは異常だよな。だからって僕に二つの能力があるとは限らないと思うのだが⋯⋯。
「⋯⋯それに、おそらく刹那の能力は『加速』じゃない」
「いや、でも実際加速させることしかできないぞ」
加速以外できない以上『加速』以外に能力があるのか?
「同じようなものだけど⋯⋯『速める』能力」
「それ、何が違うんだ?」
『加速』と『速める』意味合い的にはほとんど同じだと思うのだが。
「私の能力は『雪』と『戻す』」
確かに、小雪の能力はそうだな。
「『物』の能力と、『動作』の能力」
わかりにくい表現ではあるが、確かにそうなっている。わかりやすく言うと、名詞と動詞だろうか?
「ほとんどの人が『物』の能力しか持っていない。なら、『動作』の能力を持つ刹那が『物』の能力を持つ可能性がある」
なるほどな。僕の能力は『速める』で、『動作』の能力に分けられると⋯⋯。そうなると、『物』の能力を持っていてもおかしくないということか⋯⋯。
「私しか比較対象がいないけど⋯⋯」
二つの能力を持っているのは小雪しか今のところ聞いたことがないから仕方ないが、まあそうだな。
「つまり、刹那も能力が二つある可能性があるってこと?」
「ん」
「ふーん」
そう言って、ミナは僕に目を向ける。
「ただでさえ強い能力なのに二つって⋯⋯。かみ合わない能力だって祈るよ」
ひどくない?嫉妬だよね、それ。
「⋯⋯いい能力だと、いいね」
小雪は優しかった。
「ねぇ、小雪ちゃんの能力で戻せないの?」
ミナが、ふと思い浮かんだように言う。
「⋯⋯できない。欠片をすべて集めないといけないし⋯⋯魔道具っていうからには魔力を使ってるよね?⋯⋯わからないものは戻せない」
小雪の能力にもいろいろと制限があるんだな、あの『人形』みたいに。
「そう⋯⋯」
確かに人の適性が分かるからな。ただ、貴族制の世界で平民の地位が上がることになってしまうが、大丈夫だろうか?
「まぁ、気を取り直して、探索を再開しよっ!」
ミナが空気を変えるためか、そう提案する。
「分かった」
僕はそう答えて、辺りの探索を開始する。小雪は何も言わなかったが、探索に戻って行った。
その後も探索を続けたが、特に大きな発見もなくその部屋を後にした。あの水晶の破片は回収して、魔法袋に入れておいた。
「ん~特に成果はなしね⋯⋯」
「そうだな。振出しに戻るか⋯⋯」
「⋯⋯えっと、ごめん」
小雪が謝っているが、実際ここしか候補はないわけだし、小雪は悪くない。
「別に、小雪は悪くないだろ」
「そうよ。ここしか探す場所はないわけだし」
小雪は、まだ少し申し訳なさそうな顔をしているが、少しは楽になったようだ。小雪は責任感が少し強すぎるよな。
「とりあえず、そろそろ日が暮れそうだし、小屋に戻ろっか」
すでに日は傾き、空は茜色に染まっている。デラクアに戻るのはさすがに時間が足りないだろう。僕はそれに賛成し、僕らは小屋に戻るのだった。
なんだか、わかりにくい話ですね⋯⋯。