第31話 再・ダンジョン調査
ダンジョンから戻った僕らは、ギルドに報告書を渡して解散したはずだったのだが、
「ねえ、刹那に小雪ちゃん。もう一回ダンジョンに来てくれない?気になることがあって⋯⋯。無理にとは言わないけど」
と、再度ダンジョンに向かわないかと、ミナに声を掛けられていた。
特に断る理由もないし金に困ってるわけでもないからいいのだが、さっき調査できなかったのだろうか?
「別にいいけどさ、さっきは調べられなかったのか?」
小雪も同意見なのかこくこくと頷いている。
「まあ、調べることはできたんだけどね⋯⋯。さすがにEランクを連れてだと危険がある恐れもあるから」
ダンジョン調査はいいのに、そこはダメなんだな。緩いのか、厳しいのかわからないな。
「なんだか、いやな予感もするからね」
「まあ、とりあえず話しながらダンジョンに行こうぜ」
僕はそう言って、歩き出す。
「ありがとね」
そして、僕らは再度ダンジョンに向かうことになった。
「で、何が気になったんだ?」
「まず、ビビア言った通り、罠がなかった。いくら簡単なダンジョンとはいえ一つくらいはあるはず。それと、魔物の数が多かった。出来立てのダンジョンにしてはだけどね。そして、次の階層への階段や扉がなかった点。あのダンジョンは奇妙な点が多すぎるのよ」
なるほどな。にしても、次の階層への階段がないか⋯⋯。ダンジョンじゃない可能性もないだろうか?魔物が集まっただけだとか。
「少し話がずれるが、魔物ってどう生まれるんだ?」
「魔物?えっと確か、魔力が充満した空間で時間が経つとその魔力の一部を消費して生まれるんじゃなかったけ?ダンジョンは常に魔力が充満しているってきいたこともあるわ。難しいダンジョンであればあるほど濃くなるとか」
魔力が何かわかんないからな。風とかで流れ込んできたりもするのだろうか。
そんなことを考えていたところで、小雪が僕をつついてきた。
「どうした?」
僕が声をかけると、僕の耳に口を近づけて、
「ミナに異世界のこと話していい?」
と小声で聞いてきた。なんでとは思うが、前に地球の住所を伝えちゃってるし大丈夫だろう。そう思って、僕は頷く。
「ミナ、刹那はあの森にいたよね?」
「確かにそうね。ロックバードがいたんだっけ。スタンピードと襲撃で霞んじゃってるけど」
「刹那は異世界から来た、らしい」
「へー。そうなんだ。まあ、あんなに常識を知らなかったらそうなのかもね」
案外、あっさりと信じられた。
「それが、魔術的なもので来たなら、風下になるあの洞窟に余剰魔力が流れ込むのは自然」
つまり、僕のせいだと。後、魔力は風で流れるんですね。
「なるほどね。筋は通ってるか⋯⋯。とはいえ、断定もできないけど」
そう呟く、ミナ。そうなら、全面的に僕が悪いじゃん。流石に、責任とれとか言われても厳しいよ。
「それも候補に入れて調べようか。異世界だっけ?に帰る手がかりも見つかるかもしれないし」
別に帰りたいとかいうわけじゃないんだけどな。いやでも親族には会っておいたほうがいいか?不思議と、そこまで帰りたいという感情は浮かんでこない。
そんなことを考えていると、ダンジョンへとたどり着いた。
「再調査しようと思うけど、気になったことはどんどん言ってくれてもいいから」
そうミナが声をかけた後、僕らはダンジョン探索を開始した。
ダンジョンの中はRPGのように変化があるわけではなく、先ほどと変わらない様子だった。ダンジョン内は暗い洞窟のようで視界は悪く、狭い。とはいえ、魔物も刃物があればおそらく倒すことができる。何なら一般人でもなんとかなりそうな気がする。
しばらく歩き続けると、少し開けた場所に出た。先は特にないためここが最奥だろう。前回の調査では、ここが行き止まりだと思って引き返していた。
「結局、ここまで何もなかったね」
ミナはそう言って軽くため息をつく。まあ、ここまで成果なしだからな。
「とりあえず、調べてみよっか」
そう言って、僕らは探索を開始する。何か違和感のある壁とか床とかないかと見て回っていると、
「来て」
小雪が声を上げた。
僕らが、小雪のもとへと向かう。小雪が見ているのは何の変哲もないただの岩壁に見える。
小雪はその壁に手を当てて、
「若干冷たい。それに⋯⋯」
そう言って、手の甲でこんこんと叩く。
「音も若干高い」
と、言った。近づいて試してみると、確かにその通りだ。流石に見て回るだけで触って確かめようとは思わなかった。
「ねえ、そんなに細かく違いなんてわかるもんなの?」
ミナも近づいて試しているが、首をひねっている。
「ぶっちゃけ、違いなんてわかんないんだけど」
そう言って、再度試すも全くわからないようで首をかしげる。
「ふつうは気づかないレベルだし仕方ないだろ」
そう言って僕は、再度、その壁に触れる。冷たく、体感的には金属だと思う。
そのまま、手を這わせてみると、引っ掛かりがあった。その側には、目を凝らさなければ見えないくらいの細い線が見える。引っ掛かりも取っ手に見えなくもない。まあ、つまりドアのように見えるということだ。僕は取っ手をつかんで、引いてみる。が、壁はびくともしない。
その様子を見た小雪が、
「代わって」
そう言って、取っ手をつかんで、奥へと押した。すると、簡単に扉らしきものは開いた。引き戸ではなかったんですね⋯⋯。
「空気圧的にない」
僕に向かって小雪はそう呟いた。洞窟は密室だから仕方ないんだけど、そんなに言わなくてもよくない?せめて「押戸」って呟くだけでよくない?そんなことを考えつつ、僕は、扉の先へと目を向けるのだった。
先に部屋があるなら引き戸のほうがいいとかいうのは野暮。