第21話 ミナの過去
ミナの過去編です。シリアスが苦手な人はご注意ください
〈sideミナ〉
『数年前』
「おーい、こっち手伝ってくれ」
そんな声がかけられる。
「うん。わかったー」
私はそう答え、呼ばれた場所に向かう。私の住んでいる村は発展した村だとは言えず、兎角何もない。
ただ、村人同士の仲は良かったと思う。
そのころ、私は頼まれた荷物を倉庫に運んだり、畑仕事を手伝ったりして暮らしていた。
何もないけど不自由はしていなかった。まあ、都会へのあこがれなんていうのはあったけど。
「私ね。大きくなったら街に行って、冒険者になるんだ!」
そんなことをよく親に言っていたのを覚えている。
私の父親も母親も冒険者だった。今考えれば、なんであんな村にいたのか疑問なくらいの凄腕だった。
そんな、二人に私は稽古をつけてもらっていた。
冒険者になりたいっていうのを否定することはなかった。
その日も、いつものように過ごしていた。それが来たのは突然だった。
「ここが、目標の村だな。さて、骨のあるやつはいるかなぁ?」
獰猛な顔をした魔族の姿が目に映った。魔族は、魔物を操ることができて、どちらかというと魔物に近い存在として認識されている。その根拠として、魔力の質が魔物と同じだと言われているようだ。
私に目をくれることはなく、歩き出す。気付かれていなかったのか、気付かれていたが弱者と認定されていたのかはわからないけど。こいつは、戦闘狂というやつなのだろう。
そこに、村人たちが武器をもって集まってきた。武器といってもクワなどだけど。
しばらくして、私の両親もやってきた。父は剣、母は杖を持っている。
そのまま、奴に全員が突撃していった。私は、震えて何もできず、うずくまっていた。今でも、その恐怖は覚えている。
瞬間、あたりに風が吹いたかのように感じた。そして、少し顔を上げるとそこには全滅した村人たちと何とか立っている両親、そして、魔族だけだった。
今日も笑い合っていた彼らが息絶えていた。死んでいた。簡単に。殺された。
命は一瞬でなくなるんだとその時、学んだ。
実感させられた。その時の私の年齢を考えると強すぎる刺激だと思う。
私が、そんな感情に支配されていた時、父は剣を再度構えた。そして、あたりにも剣を展開する。母は、魔法の準備をしている。
「はっ!能力者か!『刃』か?ふっ、こんなところにいたとはな」
そう言って、魔族は襲い掛かってくる。
それは一方的なものだった。父と母の攻撃は皮膚にはじかれ、傷が増えるばかり。善戦したほうだと思う。
数分後、残ったのは地に伏した父と母。うずくまって隠れていた私だけだった。
そして、そいつは帰って行った。
すぐに私は父と母のもとへ駆けていった。
「はは。お前だけでも生きててよかった」
「そうね。生きててよかった」
父も母ももう助からないほどの傷だった。それなのに、無理してしゃべって、笑って。
でも、言いたかったのだと思う。私はそう言われても泣きわめくことしかできなかった。
「そうだな⋯⋯。さっきの戦いを見て分かったとは思うが、俺は特殊な能力を持っている。だから⋯⋯」
そう言って、自分の胸に手を突っ込んだ。そんなことをされていたにも関わらず、私の体は動かなかった。
そして、父は何か球体状のものを取り出す。そして、私の口に突っ込んだ。
「これで、継承できる。最後になるとは思うが⋯⋯生きろよ。自慢の娘なんだから」
そして、両親はこと切れた。結果、私は、私だけ取り残された。最後に、両親は安らかな顔で、笑っていた。
何分、何時間泣いていたのかは分からない。でも、落ち着いてきて私の中には憎しみがあった。こんなこと、復讐なんて両親も、村の人たちも望んでないのはわかってる。
でも、だからといって、割り切れるほど大人じゃなかった。
そこからの行動は、早かった。まず、能力を使えるように練習した。そして、冒険者にもなった。
夢にまで見ていたのに、なったからといって、何かの感情が浮かんでくるわけではなかった。
冒険者としての戦闘経験も積んだ。気付けば、私はAランクまで上がっていた。冒険者のあこがれだ。何の感情も浮かんでこなかったけど。
でも、時間というのは私に憎しみを忘れさせてくれた。結局、紛らわせただけだったけど。
初めの頃と比べると、話しやすいと思うし、明るくなった。
ただ、復讐を目的として生きてきた私の人生はこれくらいで終われる。
そして、今回の事件。街の襲撃。そして、私の宿敵。あの魔族が主犯格にいた。
そいつの姿を見た途端、私の中を忘れたと思っていた憎しみが支配した。止めることなんてできなかった。
気付けば私はそいつに襲い掛かっていた。何も作戦なんてない。感情のままに行動した。
結果がこれだ。為すすべなく負けた。何もできなかった。今までの努力じゃ足りなかった。
悔しいという気持ちなのだろう。それが心の奥から浮かび上がっていた。
次は???ちゃんの過去かな。多分。