第2話 魔法
少し長めです。そしてほとんど説明です。
あれから数時間が過ぎた。
この家にクーラーなんてある訳もなく、ただ太陽によって熱が高まっていくだけ。体が溶けてもおかしくないくらいだ。
初めの頃は、外を見ることもあったがこう暑くてはどうにも出来ない。水場を探しに行こうにもあの怪物に殺されることは目に見えている。だから、こうして家で待つことしかできない訳だが、
「やっぱり辛いよな〜」
暑さにやられた結果立つことすら体力がもったいない。というかそろそろ帰ってきてもいいんじゃない?僕そろそろ死んじゃうよ。そう思った時、
「ただいま」
と彼女が帰ってきた。そうして僕を見て、
「大丈夫?」
と尋ねる。僕は
「とりあえず水ください」
と答えるしかないのだった。
水を飲んだ後、彼女に暑さにやられていたことを説明した。すると
「いくらなんでも体力無さすぎでしょ」
と呆れ気味に返された。一応平均位の体力はあると思うんだけどな〜。
「じゃあ、明日からはしっかりトレーニングしないとね」
と笑顔で彼女は言った。この世界で生き残るためのトレーニング、どれだけ厳しいものなのか考えただけでも恐ろしい。
次の日、僕はトレーニングという名の拷問を受けた訳だが、意外と体の回復は早く何とか終えることができた。これから、毎日続くのかと思うと嫌になる。
訓練を初めて1週間ほど経過した。僕の体力は以前とは比べ物にならないほどに増えた。とはいっても、あの怪物には勝てる気がしない。しばらく待っていると彼女がやってきた。後から聞いたが、彼女はミナという名前らしい。ちなみに僕は、刹那、皇 刹那だ。
「さて、今日は魔法について教えまーす!」
この世界が異世界という時点でありそうだとは思ったが、本当にあるとは思わなかった。でも、あの獣に対抗手段があるだけでも助かる。そう思った僕はいつも以上に張り切っていた。
「まず、魔法とは何なのかってことなんだけど、魔力を合成して属性を付与して、それを爆発させるってイメージかな。攻撃の場合だけど。他には、体に巡らせて回復や身体強化もできるかな。そして魔力についてなんだけど、人間の体は常に魔力を生み出し続けてるんだよね。その量は個人差もあるし鍛えることもできる。体力と同じようなものだって考えてくれればいいよ」
「なるほど、じゃあその生み出された魔力を使って魔法を使う、ということか?」
「厳密には違うかな。魔力を生み出すのは魔力の回復のことだよ。で、その魔力を蓄えていく。そして、たまった魔力を使って魔法を使うってわけ」
「難しそうだな」
「魔法自体はそこまで難しくないよ。大魔法とかなら魔法陣による助けとかが必要だけど、普通の魔法はためて放つくらいのイメージでいいよ。難易度があるとすれば、魔力量が多くないと高威力の魔法は打てないくらいかな」
「魔道具とかはないの?」
魔道具とか魔力のこもった道具も異世界にはありそうなものだけど。
「あるにはあるし、作ることも簡単だけど、結局作り手にしか使えないし、使うとしても魔力制御をしやすくするくらいかな。魔力には質っていうのがあるんだけれども、人が持てる魔力が回復すると以前と同じ質の魔力ができるんだ。そして、魔力を混ぜ合わせるのが魔法だって説明したけど、混ぜ合わせるのが同じ魔力だと魔法は形を成さないんだ。同じものを混ぜても同じものができるでしょ。水と水を混ぜても水ができるだけだし。魔法っていうのは異なる魔力同士を混ぜ合わせることで発生する現象なんだよ。要は、魔力をものにため続けても同じ魔法を連発はできるけど、高威力になることはないんだ。同じ魔法を連発するにしても物の中で魔力を混ぜ合わせると効率が悪いしね。だから魔道具を使う人は少ないかな」
つまり魔道具を作ることはできても需要がないってことか。他人の魔力を込めても自分のものでない以上その魔力を使い慣れていないから使うことが難しいのだろう。なんで、こんなに魔力に関してミナは詳しいのかがすごく疑問なわけだが、この世界では常識なんだろうか。まあ、僕には関係ないし、今は魔法の話だし聞こうとも思わないわけだが。
「とりあえず、心の中で『ステータス』て、唱えてみて」
いわれた通り心の中で唱えてみる。すると目の前に二本の長い棒といくつかの棒が描かれている。そしてその隣にさまざまな言葉や数字が書いてある光の板?が現れた。後、レベルとも書いてある。
「いろいろ触っていけば称号とかも見れるわけだけど、とりあえず、MPってところに注目してほしいんだけど、Lv1だと100くらいかな」
そういわれてMPの欄を見てみる。書いてある数字は120となっている。一般よりも少し多いくらいだろうか。それよりも気になるのはHPの欄である。
「HPの平均ってどれくらいなの?」
と、聞いてみる。すると彼女は、
「MPと同じで100くらいが平均かな」
と、帰ってきた。そして僕のHPの欄に書いてある数字は1200だった。
〈side???〉
走る。ただ走り続ける。体力が尽きることはない。しかし、精神のほうは確実に尽きかけていた。それもそのはず。ここ数日、ずっと自分よりも強そうな化け物に追われ続けている。攻撃はしてみた。しかし、まったくと言って効果がない。ものの見事に返り討ちにあった。こんな時、自分の攻撃力の低さが嫌になる。これまでがどれほど恵まれていたか実感することになった。ないものねだりをしても仕方がない。どれだけの間逃げ続けたかわからなくなったころ、急に炎が頬をかすめた。後ろでは先ほどまで私を追いかけ続けていた獣が炎に包まれている。私が、燃えていく獣を呆然とみていると後ろから、
「力がないのに、よく無傷で済んだものだ」
と、声がした。振り向くとそこには黒衣をまとったいかにも怪しそうな男が立っている。
「あ、ありがと」
と、礼は告げる。
「いやはや、ここで会ったのも何かの縁でございます。是が非でも、私とともに来ていただきたい」
断る理由はない。むしろ、これ以上逃げ続けることができないであろうから、助かったくらい。信用できるような点もないけど、
「ん」
こう言っておくしかないだろう。私が倒れるのも時間の問題。まったくもって損はないと思う。むしろ安全で助かる可能性のほうが高い。そう思って、顔についたすすを掃う。やけどはとうに治っていた。
次はたぶん戦闘もあるはず⋯⋯