第96話 エピローグ
〈side刹那〉
その後僕らは、自分たちの組織まで帰ってきていた。帰ってくると、壁などがボロボロになっており、それがここで何かの戦闘があったのだと物語っている。
「⋯⋯何かあった?」
小雪もそんな状態を見てか首をかしげている。特に死体が転がっているというわけではないので、焦っているわけではない。
「流石に分らないな⋯⋯。とりあえず、人を探すか」
僕はそう返して、奥のほうへと歩いていく。小雪も異論はないようで僕の隣を歩いている。いつもは後ろをついてきていたんだがな⋯⋯。何か心境の変化があったのだろうか。
そして、僕らはボスがいるであろう部屋に来ていた。そして、扉の前に来たのだが⋯⋯。
「あの流れは完全に死んでたでしょ!」
との怒号が聞こえてきた。僕は混乱することしかできなかった。小雪も目を白黒させている。
とりあえず、そのドアをノックしてみる。するとすぐに入っていいぞとのボスの声が聞こえてきたので入室する。小雪は、僕の後ろに隠れている。⋯⋯正直僕も隠れたい。今考えれば前の会話の流れから、僕が小雪を置いてきていたってばれているだろうからな。穴があったら入りたいとはこのことなのだと知った。
「⋯⋯おお、戻ったのか」
ボスは僕らに向かってそんなことを言ってくる。そして、ボスに詰め寄るミナの姿。
⋯⋯なんでここにいるの?さっきの声からまさかとは思ったが。
「⋯⋯あ、小雪ちゃんもいるんだ。よかったよかった」
ミナは僕らに目を向けて、僕ではなく小雪に意識を向けたようだった。
「それで、刹那は⋯⋯」
それから少しして、僕のほうに目を向けた。しかし、それは責めるような目線でありジトっと睨まれているような感覚に襲われる。心当たりは大いにある。
「その様子だと小雪ちゃんと話せたんだろうけど⋯⋯」
案の定、小雪のことだった。僕が小雪の気持ちを決めつけて勝手に別れたことを責めたいのだろう。そう思っていたのにもかかわらず、自分の関わらぬところで解決されてしまったので怒るに怒れない、そんな状況だ。
「ちゃんと話したよ。僕は小雪のこと分かってなかったんだな」
今までの僕の行動を思い返して苦笑する。今になって考えれば、僕は小雪に支えられていたわけで、それが僕は嫌だったのかもしれないな。小雪を巻き込みたくないってだけじゃなくて、小雪と居ると復讐のことも忘れそうになるから、そんな理由もあったのかもしれない。
僕らがそんな話をしていると、ぎゅっと僕に小雪が抱き着いてきた。
「⋯⋯逃がさない」
そして、ミナのほうを向いてそう告げた。その様子に、ミナは驚いた様子を見せる。
「⋯⋯大胆になったね⋯⋯」
驚愕しながらにミナはそうこぼした。僕も、小雪の変化には驚かされているばかりだ。そして今も抱き着いている小雪の柔らかな肌の感覚が伝わってきて、恥ずかしさを感じてしまう。今まではここまでひどくなかったんだがな⋯⋯。
「⋯⋯というか、刹那もかなり変わったんだね」
そう言ってミナはにやにやと僕らを見つめる。気恥ずかしさを感じて僕は目をそらしてしまう。
「まあ、それはいいんだ。とりあえず、報告してもらえるか?」
このままだと、雑談で終わってしまうと感じたのかボスがそう声をかけてきた。僕はまさに渡り舟とそれに乗ることにする。
そして、僕は事のあらましを説明した。小雪の母親についてだけは隠したが⋯⋯。空華についても隠したかったが、僕は彼女は僕が囚われていた人々を預けていたため、そこからばれる可能性が高い。
「⋯⋯なるほどな。で、神様を殺してきたと」
「「⋯⋯」」
それに僕らは黙秘を返すことしかできなかった。いきなり神様を殺してきましたって言われてるわけだからな。かといって、僕らは割と信頼されている側の人間だから、嘘だと断じることはできない。こんな反応になるのもうなずける。
「⋯⋯まあ、信用するしかないのか。これ一体報告書になんて書きゃいいんだよ」
僕らに言われても困る。でも、報告書に神の一文字が登場するのも現代的な価値観からすればおかしなもんだよな。別に何か助言しようとは思わないし、何を言えばいいのかも分からないが、気持ちはわかる。
「⋯⋯私たちがピンチになってた時にねぇ」
ミナがそう言ったことで、今この組織もボロボロになっていることを思い出す。
「そういえば、こっちでは何があったんだ?」
空華がこちらにも襲撃者がやってきてしまうと言っていたからそれが原因だとは思っているが、状況の確認は必要だろう。
「ああ、そうだな」
そう前置きして襲撃について話し始めた。時間を止められる能力者がやってきて、ミナがそいつを倒したと⋯⋯。すべて空華の話していた通りだ。
だが、時空を切るって⋯⋯。そんなことまでできるのか。能力の組み合わせってそこまでの力が出せるんだな⋯⋯。
「まあ、それはいいのよ」
ミナはそう言ってから少し間をおいて、から言った。
「そこで、私に力を託して死ぬような会話をしたそちらのボスさん」
そして、ミナはボスのほうに目を向ける。それにたじろぐボス。⋯⋯ボスのあんな反応は初めて見たんだが。小雪も驚いているように見える。
「そんなつもりはなかったんだ」
そんな弁明をしているボス。なんだか幻滅だ。
「もう、お前らは帰っていいぞ」
僕と小雪に向かってボスはそう言った。僕らからも責められたらたまらないといった理由が暗に秘められているように感じたが、僕らは責める意思はないし、ここにいると巻き込まれかねないから、その提案に乗ることにする。
「分かりました。失礼します」
僕はそう言って、その部屋を後にする。小雪は特に何も言っていなかったが、僕の隣にピタッとくっついている。
後ろから、口論をしているであろう声が聞こえてきているような気がするが、それは無視しよう。
そして、僕らは組織から出て、それぞれの家に帰ろうと思っていたのだがもう少し、小雪と過ごしたいと思っていた。それを言ってみると、小雪は少し驚きつつも承諾してくれた。
「これから、何する?」
組織の庭にある椅子に二人で座っていると、小雪がそう聞いてきた。今からの予定かと思ったが、違うだろう。いくら、僕が組織に残ると言ったからといって、不安が残っているのだろう。僕も、ここまでされていて小雪の思いに気づかないほど鈍感ではない⋯⋯つもりだ。
「そうだな、まあ今まで通りに任務をこなすだけだ」
僕は、そう返してから少し黙り込む。
「⋯⋯小雪のパートナーとしてな」
迷った末に、僕はそんな言葉を吐いた。柄にないことを言ったからか、顔が熱い。
「⋯⋯」
小雪はその言葉に口をパクパクとさせていた。顔が若干赤みを帯びており、照れているのだろうと思った。そんな小雪をぎゅっと抱きしめる。
突然のことに、驚く小雪だったが、抵抗はしない。そして、ぎゅっと僕を抱きしめた。
「私も⋯⋯」
小雪はそう返した。そして、僕らはしばらくの間抱き合っているのだった。
宵「これで完結とさせていただきます」
イ「次回があとがき、反省会です。暇だったらご覧ください」
宵「それと、続編はやるかもしれないしやらないかもしれないです。やるとしても不定期更新になりそう」
イ「ここから先は蛇足感があるからね」
宵「そして、新作については構想はなんとなくできてますので、お楽しみに」