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第92話 大丈夫かこの展開01


 文化祭も近づく今日この頃。


 またしても王国の宰相閣下はやってのけました。


「とりあえず核兵器の廃絶」


 とのことで。


 何時もの様にお茶の間を乗っ取っての宣言です。


 グローバリズムな情報社会はラピスというクラッキングにとってはソレだけで両刃の剣だ。


 その気になればクラッキングだけで文明を停止させられる。


 電子と通信なくして国際社会は成立せず、その上であらゆるセキュリティがラピスの前では沈黙するとなれば、「合掌」拝むより他に無し。


 で、自宅で撮った動画を全世界のお茶の間に。


「常任理事国ならびに隠匿している国家の皆様方」


 ニッコリと破顔するラピスは愛らしい。


 そりゃ世界中で臣民も出来る。


 誰にも渡す気は無いけどね!


 ルリも可愛いけど、ルリの異時間同位体も可愛い。


 つまり結論として愛妹は可愛い!


 あらゆる妹属性は、それだけで正義の御旗も同然だ。


「世界平和を愛するべきとして、私は熱核兵器の全面撤廃を掲げます」


 言葉の前後が繋がってないけど、ぶっちゃけ宰相閣下には何時ものことだ。


 少し刻を省略して、次の日。その早朝。


「くあ」


 僕は欠伸をしてベッドから起き上がった。


 ラピスとルリが一緒のベッドにいるけど、とりあえずは何もしてはおりませんので悪しからず。


 朝食を作って家族で食べながらリビングのニュースを見る。


 ホワイトハウスは荒れ狂っていた。


 そりゃそうだ。


 いきなり抑止力を失ったのだ。


 多分ホワイトハウスどころか、世界中の核保有国が大混乱だろう。


 大根おろしの味噌汁を飲む。


「核抑止力無しに世界平和は有り得ない! むしろ熱兵器で我を押し通すミス司馬の短慮こそ世界平和の敵である!」


 ご尤も。


 反論の余地も無いね。


 けどまぁ属国が声を張り上げても、我が国の政治事情にはまったく勘案の対象でもないのだけど。


「で、結局何がしたかったの?」


 ボイルドウィンナーをカリッと囓りながら、僕はラピスに尋ねた。


「意味は特に在りませんが」


 それはそれは。


 あたまのずつうがいたい。


「常任理事国のお偉方は血の気が失せるの状況だろうけど」


「アドバンテージがなくなったら誰でもそうでしょう」


 だよね。


「その上で?」


「王国にとって核兵器は邪魔以外の何物でもありませんや」


 そりゃそうだけども。


 たしかに熱核兵器ですら死なないとは言え、打ち込まれれば哀しい結果しか残らない。


 まして世界制覇王国にとっての挑戦となれば、たしかに威力を思い知らせる意味で政略的には意義もあろう。


「戦争が起きなきゃ良いけど」


「抑止力はメギドフレイムで賄いますよ」


 それもどうよ?


「それと……台湾とインドの核兵器はそのままです」


「何でそこだけ見逃したの?」


「中国に対する牽制です」


 そりゃそうか。


 インドにしろ台湾にしろ抑止力がなくなればぶっちゃけ人民解放軍を止められないだろう。


 核兵器がなければ、単純な武装と歩兵が戦力に直結する。


 十数億の人材を持っている国だ。


 あまりに簡単な兵力差が中国にはあるわけだ。


 米国は核兵器無しでも戦力を保てる。


 そもそも戦闘機や戦車、潜水艦に空母……拳銃に至るまで超ハイスペックを維持する国だ。


 軍需産業様々。


 常任理事国も多少は安全地域。


 核がなくとも、ある程度は戦える。


「で」


 南無八幡大菩薩。


 人民解放軍は抑止力がなくなればタガが外れる可能性がある。


 その意味でインドと台湾には核抑止力が必要なのはわかるけど……。


「台湾に核兵器在ったっけ?」


「技術はありますよ。機材とプロジェクトが凍結しているだけで」


「えーと?」


「輸出しました」


「核兵器を?」


「正確にはシステムを」


「いいの?」


「日本に撃ち込まれなければ問題ないでしょう」


 そりゃガチで中華を敵に回したら台湾勢力だけではどうにもできないけど。


「システムメギドフレイムも在りはしますけど、百年単位で考えるなら独立の手法は必要ですしね」


「ワールドジャンプって密輸に便利ね」


「えへへ」


 褒めてないんだけどな。


「しっかしそうなると……」


 国際的に非難轟々だ。


「今日は自主休暇にしますか」


 何せ我が家の周りを記者から広報担当者から市民団体まで押し寄せる始末。


 ルリの精神衛生に宜しくない。


 ルリズムとしてはルリの精神が第一義。


 何か普通に学院生活をしているだけなのに、魔王の如く扱われている僕自身が一番意味不明だ。


 世界で一番偉いって言うのもなんだかな。


 妹の純情は嬉しいけど、だからって世界征服しなくとも。


 それとも世界に対する復讐だろうか。


 僕を失った……ラピスにとって。


「あむ」


 食事を終えて、のんびりお茶。


 インドと台湾以外の核兵器が廃絶……あるいは焼失したので、こうなると戦争勃発の導火線な気もするけど、


「考えるの後にしよう」


 さすがに全てを責任に感じるのは僕には無理だ。


 こちとら一介の高校生。


 殊更、政治事情に詳しいわけでもないし、メギドフレイムを持っているでもない。


 世界覇王も大変だねぇ。


 多分居るだけで台風の目だ。


 あんがい僕の周りだけなら大人しい。


 もちろんラピスのおかげであるのは重々承知してるけど。


「一応家にもセーフティはかけてるんだよね?」


「はい。万事ぬかりなく」


 笑顔のラピス。


 あら可愛い。


「お隣のアートは大丈夫かな?」


「さすがにシルバーマンを敵に回す人間はいないと思いますけど」


「ラピスは?」


「いいお友達です」


 イギリスの核兵器を破壊しておいて言うかね。


 ラピスらしいっちゃそうだけど。


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