表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/122

第90話 文化祭の準備05


「――――!」


 絶叫が響いた。


 早朝の頃。


「大丈夫」


 僕はギュッとラピスを抱きしめる。


「兄さん……ごめんなさい……ごめんなさい……」


「ここにいるよ」


 僕は居るよ。何も責めず。何も畏れず。何も託さない。


 ただ優しいだけの兄さん。


 そんなものに僕はなっていた。


 愛らしいラピス……ルリが悲しんでいるだけで、僕の心はあまりに層の厚い曇天模様になる。


「大丈夫。大丈夫。僕は生きてるから」


「兄さん……」


「安心して。呼吸を整えて。僕の体温を感じて」


「兄さん……」


「ここにルリを責める者はいないから」


「けど兄さんが……」


「夢だよ。幻だよ」


「あ……う……」


「ちゃんとルリのことを見てる」


「責めないんですか?」


「それは僕じゃない。誰でもない」


「じゃあ……」


「ルリを責めてるのはルリ自身だ」


「私の……罪だから……」


「だからここに来たんでしょ?」


 そう言うことだ。


 ――きっと今度こそ間違えないように。


 なら僕はソレを尊重する。


 ルリの愛らしさと弱さと可憐さを認める。


 たとえルリが自分自身を否定しようと、ソレを塗りつぶす愛と情とで、僕はルリに応えよう。


「だからここに居るんでしょ?」


「はい……」


「吐きたい?」


「いえ……」


「吐いていいからね?」


「大丈夫……です」


「本当に?」


 ラピスをあやす。


 頭部を胸元に抱きしめて、白い髪を撫でる。


 サラサラとして触り心地抜群。


「可愛いルリ」


 あやす。


「ただ君が居る奇蹟を僕は望むから。だから怖い事なんてない。大丈夫。自分に失望する事なんてないんだ。この愛らしさは犯しがたいモノで、だから僕は全身全霊をもってルリを愛そう。ソレだけで足りないなら、もっともっと愛そう。それだけの価値をルリは持っている。だから安心して。最後まで僕は味方だから。この奇蹟に乾杯だ」


「…………兄さん」


「だからルリも……その奇蹟を大切にして欲しい」


「はい」


 胸の中でラピスの乱れた息が整い始める。


「じゃあルリ」


 頭ナデナデ。


「起きよっか。お茶飲む?」


「お願いします」


「はいはい」


 そして僕とラピスはダイニングへ。


 僕はキッチンに立ってハーブティーを淹れ、ラピスに差し出した。


 胃に優しいだろう。


 アロマ効果もあるだろうし。


 血色は良くなっている。


 だから、


「はい。ラピス」


 僕はラピスと呼ぶ。


「お見苦しいところを見せました」


「辛いときは泣いて良いんだよ?」


「兄さんの重しになっては居ませんか?」


「ラピスが悲しいなら僕も悲しいからね。きっとそれがお兄ちゃんのもつコンプレックスだよ。名誉なことだと僕は思う」


「あう……」


「そういうところは同一人物だよねぇ」


 穏やかに笑ってしまった。


 ロリルリの発展型。


 未来予想図。


「兄さんのせいです」


 ブスッとしてハーブティーを口に付ける。


 けれどハーブティーは外れなかったらしい。


 美味しいと思って貰えれば光栄で、だから次からも受け付けたくなる。


「食欲はある?」


「少しなら……」


「トーストをコンソメスープに浸せば食べられそう?」


「えと……はい……」


「重畳」


 頷く。


 自身の茶を飲み干して毎度の朝食の準備。


 何時ものことだけど大切な時間だ。


 洗濯も並列してこなす。


「僕とルリは……」


 ジャムとサラダとベーコンを追加。


 ルリを起こして朝食。


 ラピスは細々とトーストを千切って食べていた。


 胃がビックリを起こしているので、そうそう消化に悪いモノは食べられないだろう。


 スープに浸してもそもそ。


 ちょっと可愛い。


 ウサギみたいで。


「お姉ちゃん……大丈夫……?」


「えと……」


 自分に心配されるのも今更だけどね。


 けどルリは僕の死を知らない。


 そこには隔絶があろうけど。


「兄さんが居るので大丈夫です」


「お兄ちゃん……グッジョブ……」


 蓮華草の様にルリは笑った。


 照れる。


 ていうか可愛すぎる。


 白い髪と赤い瞳。


 抱くと華奢な身体。


 晴れやかな蒼穹の笑顔。


 全てが高水準で並列している。


 さすがにシスコンにもなるよ……そりゃ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ