第87話 文化祭の準備02
提出。議論。受諾。それから準備。
「~~~♪」
色々と準備にも時間はかかる。
ウェイトレスは女子から十名。
ラピス。四谷。アート。
かしまし娘は此処に含まれる。
接客業の練習だけど、三人とも器用なので、そつなくこなす。
アートは紅茶の茶葉も提出した。
最高級の物だ。
「さすがにどうよ?」
とは思えど、まぁ財閥令嬢らしいと言えばその通り。
おかげで予算無しで茶葉が手に入ったのだから、文句の出ようもないだろうし、その上でメイドまでこなすというのだからアート=シルバーマンの規格外さよ。
んで僕は、
「…………」
準備係でテーブルクロスを縫っていた。
メイド服の作製と同時だ。
ウェイトレスと裏方が当日で別れ、準備要員は各々で配分される。
裏方は茶の淹れ方を学んでおり、そうでない生徒は喫茶店の下準備。
僕は裁縫が出来るので、そっち方面に割り当てられている。
結構楽しんでこなしていたりして。
少し浮かれている。
一つ一つ丁寧に糸を縫うのは、コツコツとした作業で、達成感が半端ない。
その過程を楽しむのは、僕としても悪くない作業で在り、なお生産的とも言える。
覇王陛下としてどうかとの気持ちはあれど。
ま、別に覇王が文化祭を楽しんでも良いじゃない……とでも申せましょうか。
「ま、いいか」
アートが傍に居れば牽制にもなるし。
その点は頼りにしている。
「陛下は御器用でーす」
アートが暇潰しに僕へと話しかけてくる。
碧眼には尊敬が乗っていた。
いやいいんだけどさ。
器用と言うには地味な刺繍だ。
「そこそこね」
「ジャスト」
然程かな?
ツイツイと運針。
文化祭は二週間後。
まぁ間に合うだろう。
「さて」
アートに尋ねる。
「財閥令嬢は接客スマイルは出来るの?」
「心ん無く笑うのは得意だす」
政治レベルではそうだろうけどさ。
ちょっと財閥令嬢の深淵を見た気分。
多分色々と笑顔の使い分けが必要なのだろう。
そこに何を思うでも想像が付かないんだけど、その苦労は忍ばれる。
大変なんだろうね。
アートもまた。
「問題あらせられてしかり?」
「んにゃ」
どうやら杞憂のようだ。
ニコニコ笑顔が出来るなら、腹に一物持っても心丈夫。
「休憩時間はあるの?」
「ローテンション」
グッとサムズアップ。
ローテーションね。
「デートか……」
「いけませぬか?」
「いや、アートの目的はラピスでしょ?」
「陛下にも好印象をもてほしです」
「にゃ~」
あまり意味があるとは思えないんだけど。
基本的に世界制覇王国の運営は、ラピス有りきで行なわれている。
僕は確かに覇王だけど、今のところ政治的決断は求められていない。
「そげなこつありゃせんですから」
君の日本語は不思議だね。
今更か。
「で、僕としては愛して欲しいのでしたり」
「僕の何処が好き?」
「清潔な外見と気さくな内面」
サクリと言われた。
「気さくかな?」
「あまりいません」
何者が?
「僕をちゃんと見てくる御仁は」
しょうがない。
不機嫌を買えば破滅だ。
どうしても肩に力は入るだろう。
そういうと、
「陛下は違いなます」
「色々とぶっ飛んでるから」
ラピスがなければ交わることの無い縁。
はっちゃけるに、偶然の産物だ。
破滅と共存のヤジロベー。
殊更に何を思うでもないけど。
「もうイギリスは永久機関を獲得したんでしょ?」
「陛下もシルバーマンになていいですよ~?」
「要熟考だね」
玉虫色な回答。
なんか世界のスケールが大きすぎる。
世界財閥がこんなんでいいのだろうか。
ラプラスレコードがどうとか言ってたね。
インタフェースだったっけ?
「兄さん」
想い慕っていたところに、ラピスが加わった。
此奴の愛らしさは天井知らず。
シルクの髪とルビーの瞳。
「わお」
と同妹さん。
華やかに笑うのは、人生経験故か。
どんな人生を体験したかは怖くて聞けないけども。
僕は刺繍に意識を割きながら、ラピスの声を聞く。
「素敵なテーブルクロスです」
白を基調として華やかなモード服をイメージして意匠している。
フリル付きのテーブルクロス。
それが目標地点だ。
「ラピスが気に入ってくれて畏れ入るよ」
「アートも思ってますよね?」
「もちのろんでござーますれば」
「ありがと」
白銀の髪を撫でる。
キラキラと揺れた。
アートのメイドさんも少し楽しみ。
「兄さん?」
「はいはいラピスも」
白い髪を撫で撫で。
愛いヤツめ。




