第85話 恋の下火はまだ燃えて06
「たでぇま~」
イギリスから直帰。
時差関連で疲労はしたけど、まぁその辺は何とか。
我が家に戻ると安心感も覚える。
「良い事だ」
とりあえずコーヒーを淹れる。
「おかえり……お兄ちゃん……」
人類の至宝がヒョコッと顔を出す。
――この場合ルリは皇妃に当たるのでしょうか?
「ただいまルリ。コーヒー飲む?」
「ミルクと砂糖たっぷりで」
「承りました」
「私も~」
「はいはいラピスもね」
「えへへ~」
華やかに笑う。
白い髪が揺れて赤い瞳が輝く。
純に嬉しそうだ。
こっちの心まで嬉しくなる。
二人のルリのいる素晴らしさよ。
「ではどうぞ」
コーヒーを振る舞う。
「イギリスは……楽しかった……?」
「まぁね」
ロンドンを観光してきた。
希に本で舞台になるけど、実際に見てみると活気があって良い街だ。
「紅茶も美味しかったよ」
「紅茶……」
「お土産に貰ったから後で淹れてあげる」
目覚ましはコーヒーに限るので後回しだけど。
紅茶の香りもまた格別だ。
「問題は」
「問題?」
「僕が紅茶の淹れ方を知らないことだよね」
一応喫茶一式貰ったけど、そもそも本格的に紅茶を淹れたことがない。
当たり前だけど。
紅茶の値段然るべきの淹れ方はさすがにマスターしておらず……その意味でちょっとお土産相応の質を具現するには実力が足りず。
「兄さんの愛が入ってるだけでも百二十点!」
「だよ……」
二人の愛妹はそう言った。
光栄だけどさ。
「しっかし」
コーヒーを飲みながらぼんやり。
感想が漏れ出る。
「そろそろ夏休みも終わりか」
「宿題は片付けられましたか?」
「大分前にね」
「単位不問処置もとれますが?」
「別に無理を通すほどのことじゃないから」
成績不振ならともあれ、普通に授業とテストを受けて普遍的な成績を出せるので特別苦でもない。
まずもってそのために黄時学院にいるのだから。
「にゃ~」
とラピス。
コーヒーを美味しそうに飲む。
「そろそろ次段階に行くべきでしょうか?」
「何の話?」
「その……世界征服……」
はあ。
「何するの?」
「核弾道ミサイルの壊滅。これはキャンペーンとしても上々かと」
「そうすると人口換算で中国に利しない?」
「叩き潰せばいいだけでは?」
ぶっちゃけ逸っているのは人民解放軍であって国民ではない。
そんなラピスの結論。
「別に核兵器を否定する気もありませんけど、抑止力を私一人に絞った方が王国の安寧としては都合が宜しいので。その意味で核兵器の廃絶は有利かと」
そういう見方もあるわけだ。
そも王国というのも実感が湧かないけど。
僕の発言が世界各国の法律より上位に位置する。
とはいえ世界大戦を開いても意味ないし、財産平等を提示しても経済混乱を起こすだけだろう。
世の中は二パーセントの裕福者が金を握ってるから出来る事柄だ。
干渉力が大きすぎるだけにへたを打てないジレンマ。
「その辺りは私にお任せあれ」
宰相閣下の御言葉。
力強いけど、どこか危うい。
「ところで金銭的不満はありませんか?」
「ございません」
「性欲は?」
「一人で出来るもん」
「それもどうでしょう」
「世界中の美女を侍らせば良いの?」
「そんな声も在りはしますけど」
あるんだ……。
たしかに僕は世界覇王ですけども。
「臣民を名乗って兄さんの婦人になりたい方はネットでもお見かけしますよ?」
「あまり嬉しくないなぁ」
基本童貞なので、その辺は認識の埒外だ。
あとルリズムだし。
ルリさえ居れば心丈夫。
殊に他に為す術もなし。
「まぁ淫蕩も善し悪しではありますけれど」
「例えば四谷を側室に迎えるのは?」
「側室ですか……」
ビッチとは言っているけど、過去の四谷が未来の借財を背負うわけでも無い。
「言っている理屈は私も承認しているのですけど……」
納得できるかは別問題。
ま、そりゃそうだ。
だいたいソレを言えば収拾がつかなくなる。
「お兄ちゃん……」
「何?」
「好き……」
「僕も大好き」
ルリを抱きしめる。
――『僕』を賭けて守り抜くモノ。
その存在が胸の中に。
「あう……」
赤面する愛妹の愛らしさよ。
それだけで御飯三杯はいける。
本当にルリは愛らしい。
僕の世界はそんな感じで回っている。




