第83話 恋の下火はまだ燃えて04
「え? 一緒に?」
先にもラピスが言ったけど、混浴する気満々だった。
「却下」
と僕。
「ああん。兄さん」
縋りついてくる妹さんにブルドッグ。
フニフニと頬を抓る。
可愛いし抱きしめたいし愛してあげたい……と思うソレは偽らざる本音で、それほどラピスは愛らしい。
「では風呂を頂きます」
僕は一人で入浴した。
それから寝室に案内されて読書の時間とした。
使用人さんがついてくれる。
デカフェの紅茶を頼むと持ってきてくれた。
「美味しいですね」
とラピス。
「まっこと」
と僕。
実際に見事と評せる。
「陛下」
と使用人さん。
この場合は僕のことだ。
「何でしょ?」
首を傾げる。
なにか世界的なテロリズムをお求めなら宰相閣下の方がスムーズだ。
其処まで考えてのことだったけど、世界は結構常識的に回る。
「四谷様が面会をと」
「部屋に入れていいですよ」
「承りました」
そして四谷が入ってくる。
パジャマ姿だ。
髪はドライヤーで乾かしてある。
「まじ司馬さんと一緒なんだ」
呆れ半分に言われた。
ま、ね。
「兄さんと一緒でないと寝付けませんので」
「妹さんはそれでいいの?」
いいんです。
口にはしないけど。
ルリとラピスは近似値だ。
相似形にして、同一存在。
であれば僕はラピスを愛せる。
ルリの代替と分かってはいても。
でも白い髪と赤い瞳。
アルビノは強く僕を惹き付ける。
「そんなことを聞きに来たの?」
「一種ね」
にゃる。
「で、御用は?」
「あたしも一緒に寝る」
「却下です」
ラピスが即断した。
気持ちは分かる。
けれども四谷には通じないだろう。
まず以て状況不明なのだから。
「ビッチは一人で寝なさい」
「ビッチじゃないし……」
少し苛つくような目。
そもそも唐突に現われたラピスが僕と仲良くして……なお不条理を覚えない方が嘘ではあるのだろう。
「司馬は?」
「別に構わないけど、面倒事になるよ?」
「どういう意味し?」
「兄さん?」
「わかっちゃいるけど」
「というわけでビッチは出て行ってください」
「わかったし」
四谷は僕に流し目。
「……………………」
腰のポケットをチョンチョンと叩く。
……そゆことね。
へぇへ。
モテる人間も大変だ。
この場合はまた違うかもしれないけど。
それにしたって意味不明も突き詰めること大で。
「兄さんはおモテになりすぎです」
「僕のせい?」
「違いますけど」
だよね。
本を読みながらスマホを弄る。
「明日の朝に日本庭園のベランダ」
「おきどき」
そう答えた。
「兄さん兄さん」
「はいはいはい」
「他の女の子と一緒に寝ちゃ駄目ですよ?」
「善処しましょ」
他に言い様もないはず。
実際に僕はラピス以外と寝る気は無い。
ラピスの発作を抑えられるのは僕だけだからだ。
その意味で、ラピスの懸念は見当違い。
「では寝ましょう」
紅茶を飲み干してラピスの言う。
それにしても早朝か。
一応ベランダの位置は覚えてるけど。
四谷が何故其処を指定したのか。
それは悩んで分かる物でもないだろう。
「今更何を?」
といった印象。
もっとも乙女心が論理明快なら世界はもっと生きやすい。
「ふ」
栞を挟んでパタンと本を閉じる。
「に~さんっ」
ムニュッと乙女の隆起が押し付けられる。
あわわ。あわわわ。
性欲が刺激される。
至福。
エロ親父とも言う。
「にゃごう」
ラピスは嬉しそうだ。
悪夢を見ても僕が傍に居れば何とかなるのだろう。
ラピスの態度はそう言って過言では無い何かを含んでいた。
だからきっとラピスは僕を欲した。
僕さえいれば、心丈夫。
その点をラピスが間違えたことはない。
きっとそこに救いはあるのだろう。
ラピスにとっての僕がそうなのだから。
だからって時間を巻き戻してまでってのはちとやり過ぎな気がするけど。




