第76話 ライフイズビューティフル03
「司馬」
とラインでコメント。
風呂上がりのリビングで。
――久遠だ。
僕は冷えた麦茶を飲みながらクーラー付けて夜の一時。
ぶっちゃけそれ以上に厄介事は忌避すべき。
けれども回避も不可能か。
「何でしょ?」
「四谷をフッたのか?」
「だね」
惜しいことをした。
四谷のパイオツの感触は手に残っている。
とても甘美な感覚。
「久遠は気付いてた?」
四谷が僕に惚れていると。
「無論」
端的に返された。
「そっか」
こっちも端的に返す。
覚られているなら、僕が鈍感だったと言うだけ。
だからって罪悪感を持つのはどうかと思うけど、人の感情は四則演算じゃない。
「四谷じゃ駄目なのか?」
「駄目っていうか……」
何というか。
僕にはもっと優先事項がある。
それだけ。
「司馬さんか?」
「愛妹ではあるね」
「アート?」
「アレの下心はわかんないけど」
――別に気にすることでもにゃー、てな具合。
アートが気にしているのは僕じゃなくてラピスだ。
一応「陛下」とは言われてるけど、忠誠の対象はラピスだし、第一種永久機関の敷設もラピスの権限。
別にそれを何とも思うこともないけど、冠の軽さは自覚している。
「四谷、泣いてたぞ」
「そうなんだ」
特別関心も引かない。
「付け入れば?」
煽ってみる。
「出来るか馬鹿」
「妥協案なら可能な気がするけど」
「司馬さんは何で俺をそう呼ぶんだ?」
――僕が死んでから四谷の妥協で付き合い始めたからだよ。
とはさすがに言えない。
「久遠は四谷が好きじゃ無いの?」
「惚れてる」
「スクショでコメントを撮ってみました」
「おい」
コメントなのに気迫が感じられた。
ジョークのつもりだったんだけど、聞き逃せないらしい。
久遠もたしかに四谷に惹かれているのかぁ。
なら問題はないわけだ。
「ぶっちゃけ顔なら久遠がイケてると思うんだけど」
「そうかぁ?」
謙遜なのか嫌味なのか。
「パツキンだし」
「黒だと重いだろ?」
「そこまで考えてるんだ」
「ぶっちゃけな」
「四谷も幸せ者だ」
「お前が言うか」
「僕には他にやることがあってね」
「何だよ」
「秘密」
というより馬鹿らしいので言えない。
「せめて後腐れくらいは解消しないか?」
「それは四谷に言うべきだね」
こっちが突き放しておいて距離を詰めるのはどうだろ。
気まずい空気は好きじゃない。
おかげでそれなりの処世術は獲得したけど、ピエロを演じるのは少し違う。
道化としてなら……確かに出来る。
空気を読まないのもお手の物。
けど、慕いに鞭打つ行為は心理的にブレーキもかかる。
いや、「やれ」と仰せなら出来ますが。
「羨ましい」
率直な久遠のコメント。
それだけの言葉なのに、多量の情報が詰まっていた。
――こやつも青春してるんだなぁ。
「ま、ね」
何を返せるでも無い。
知らない振りが一番軽やかだ。
精神的にも負担にならないし、後顧の憂いも断てる。
久遠の思う場所は知っていても、僕から出来るアクションというのもあまりないのだ。
それは久遠も知るところだろう。
空気に聡いのは彼の十八番。
「というわけでだ」
そんな久遠のコメント。
「何か?」
すっごいヤな予感。
「俺らで遊ぼうぜ」
何時ものトリオ。
司馬と四谷と久遠。
ま、それくらいならいいけどね。
「四谷は大丈夫なの?」
「知らね」
そういうよね。
実質的な問題として、四谷を誘うには、僕の感傷が入れ込む……のだけれど逆に拗れないかな?
其処が少し心配で、けれども確かに思う物。
「けど塞ぎ込んでも解決しないだろ」
「このイケメン」
「単なる下心だ」
「そういうところがね」
僕には勿体ない。
久遠の恋心が那辺にあるかは……まぁ明言しないとしても、四谷を慮っているのはイケメンの証左だろう。
本当に人間が出来ている。
「じゃ、お膳立ては任せるよ」
「おう」
こんなところで、僕は久遠に敵わない。
分かっている現実ではあれど、でもやっぱり四谷を癒やせるのは僕じゃないこと。
僕にとっての一番はルリで、だから四谷は一番じゃない。
「じゃ、予定が立ったら教えて」
「あいよ」
そんな感じになった。
さて、どうしたものかな。
考えて解決するなら、この世の恋愛はもっとロマンティックだろう。




