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第73話 祭りの後の祭り06


 花火を見終えて、僕と四谷は彼女の家まで歩いた。


 さすがに一人で帰すのも危ないってなもんで……ついでに浴衣姿の四谷は多分、男一勢の垂涎の的だ。


 親告罪に会う危険性も無いでは無い。


「ありがと」


 帰宅途中。


 四谷は唐突にそう言った。


「何が?」


「ナンパから助けてくれて」


「ラピスにお礼を言いなさい」


 多分に、あっちが原因だ。


 世界制覇王国。


 あらゆる意味で、超法規的な存在。


 そりゃ米国も尻込みしますよ。


 穀物メジャーだって限界はある。


「格好良かった」


「顔が売れたからね」


 ホケッと僕。


 四谷はムッとなった。


「多分そうじゃなくても司馬は助けてくれたよ」


「さほど徳は積んでないんだけど」


「ちょっと初めて出会った頃思い出したし?」


「あー……」


 まぁ助けたね。


「正義の味方ですから」


 街灯の明かりがポツポツと。


 花火を見たので、街灯が点くのはちょっと遅いと申せる。


「どうやってお礼を返せばいい?」


「友達でいてくれるだけで十分だ」


 他に何も要らない。


 別に欲望が乏しいわけでは無く、僕には友達が少ないから、友人関係の構築は貴重なのだ。


 そこは四谷にも言っている。


 四谷と久遠がいなければ、僕は今でもぼっちであり続けただろう。


「残酷だね」


「あ、引いた?」


「やっぱし司馬は少し天然かも」


 ――何故に?


 しばし自覚無しに思案していると四谷の家に着く。


 高級住宅層。


 そこそこ四谷の親御さんは稼いでいるらしい。


「司馬」


「はいはい?」


「――――っ!」


「――――――――」


 唐突の愛情表現。


 唇を奪われた。


 クチャッと音がする。


 口内を舌で蹂躙された。


 身長が似通っているのが災いしたとも言う。


 唇に、容易く唇が重ねられる。


 所謂一つのディープキス。


 四谷は唾液を舐め取りながら、僕の手を取って自身の胸に当てる。


 おっぱいが浴衣越しに柔らかさを伝えてきた。


 もみもみ。


 ラピスには及ばないけど、それなりに乙女の体つき。


「司馬ぁ……」


 その茶の目は恍惚に蕩けていた。


 恋の慕情。


 恋慕の熱。


「好き。大好き。超好き」


「マジで?」


「だから天然」


 ――僕が鈍感なのか?


 押しやられた手は女子の胸の触感を伝えてくる。


「今日親居ないから」


「はあ」


「好きなだけ出来るし……」


 処女性と娼婦の性質が混じり合った淫靡な御尊顔。


 乙女であり女とも呼べる成長期。


 それは深く僕の男性に刺さる。


 四谷は発情していた。


 それもオスを求めるメスの貌で。


「それとも……」


 蠱惑的に唇が動く。


 出てきた言葉は、予想を超える。


「此処でする?」


「面白そうだね」


 ちょっと混乱中。


 深刻なシンタックスエラー。


 ここで? 人通りのあるこの場で? 公開セックスですか?


「あたしはだいじょぶ……だよ?」


「…………」


「浴衣だから下着付けてないし……」


 耳元でボソリと囁かれる。


「さいか」


 けれどおまじないが邪魔をした。


 ドクンと一つ。心臓が脈打つ。


「ありがとね」


「何が?」


「僕を好きになってくれて」


「司馬……」


 さすがに四谷は空気を読める。


 ここで改めて僕がそんなことを言えば……あらかた分かるだろう。


「お願い司馬! 突き放さないで!」


 抱きしめられる。


 背中に腕を回され強く強く。


 柔らかな胸が、胸板に押し付けられた。


「好きだから! 好きになって! 何でもするし!」


「いなせな乙女だ」


 その整えられた茶髪をクシャッと撫でる。


「本当! 何でもする! マジ好きだから! 拒絶しないで! 傍に居て!」


「ゴメン」


 他の言葉は紡げなかった。


 ――何が正義の味方だ。


 乙女の心を蹂躙しておいて。


「司馬ぁ……」


 結局こんな傍の女の子さえ推し量れない。


 四谷の趣味の悪さも頷ける。







「――四谷なら恋人選べる立場でしょ?」


「そうでもないかも」


「惚れない奴なんているの?」


「いるかも――」






 そんなやり取りを思い出す。


 自嘲するにも辛すぎる。


 乙女の涙と云う奴は。


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