第72話 祭りの後の祭り05
「祭りか」
公道を一部封鎖して祭り会場に。
出店が並んでおり、とりあえず綿飴を買った。
夕焼け。
宵の口。
すぐに夜が訪れる。
「司馬」
「何でっしゃろ?」
「写真」
四谷が僕の肩に肩を寄せてきた。
スマホを掲げる。
所謂自撮り。
「覇王陛下とデート中なう……と」
「良い晒し者だね」
「嬉しくない?」
「勿体なくて恐縮するね」
「じゃ、いいし」
――何がだろう?
聞くより先に四谷は出店に向かった。
リンゴ飴を買って囓る。
僕は綿飴。
なんか砂糖を糸状に伸ばしただけの商品にそれなりの値が付くのはいったいどうしたことだろうね。
かき氷にも通じるぼったくり感。
「むしろそれがいい」は日本の文化だろうけども。
まず普通は恒常的な商売にならない。
――夏の熱気が惑わせるのか?
少し考える僕でした。
「はい。あーん」
嬉しそうに四谷はリンゴ飴を差し出してきた。
シャクっと食べる。
「はい。あーん」
綿飴を差し出す。
「ん」
ふにゅっと食べられる。
「何か照れるし」
「恋人でしょ」
「そう思ってくれる?」
「期間限定でね」
綿飴を食べながらつらつらと。
途中でウッターマンの仮面があったので買って被る。
「いい歳こいて」
おかしそうに四谷は笑った。
写真を撮ってツイッターにアップ。
「世界覇王ワロス」
との御様子。
国際的緊張感の中で、「何をやっているのか?」とは思えども。
多分ラピスは知っていて放置してるのだろうけど。
世界情勢も。
僕らの逢瀬も。
その程度は片手間に出来るだろう。
ラピスの超演算を僕は安く評価していない。
むしろ脅威の第一位に押し立てている。
それほどだ。
我が愛妹の非常識さは。
「次何食べるし?」
「焼き鳥」
スマホを弄ってルリにライン。
「夕食はカップラーメンでも。あとはラピスに相談して」
ルリズムとしては意義に反するけど、さすがに四谷を無視して帰るわけにもいかない。
いや……やろうと思えば出来るんだけど。
デートの最中に「妹が待っているので帰ります」は四谷に悪い程度は思う。
こうなれば冷えても美味しい夕食を作っておくべきだった。
しょうがないので、ラピスにライン。
フォローをお願いする。
「つまりルリをどうにかすれば良いんですね?」
「さいです」
そんなコメント。
「はい焼き鳥」
食べているところでまた自撮り。
「で反響は?」
「ハチャメチャ」
面白げに笑われた。
何でも非難と尊崇のメッセ過多とのこと。
そりゃそうなるよね。
ウッターマンの仮面を付けているのですれ違う人は気付いて無いようだけど。
しばらく食べ歩き、程々に青春。
「花火までどれくらいかね?」
「さっき雷がなったからあと三十分ってところかな?」
「ロマンチシズムの産物だよね」
「夢の無いこと言わない」
「火薬を芸術に使ってるから銃火器に使うより健全だと言いたかったんだけど」
「そういうのを捻くれてるって言うの」
性分だしね。
「お、ちょーかわじゃん」
見た目年上の男性のグループに絡まれた。
「っ……」
一気に四谷の顔から血の気がひく。
暗いので「多分」と付け加えるけど。
星と出店と街灯の明かり。
花火はもう少し後。
「隣、彼氏? ヒーロー仮面超格好良いし?」
一人がそういうと、グループ全体に嘲笑が伝播した。
「ソイツより俺らとまわらね?」
「マジ良い感じにしてやるから」
「俺たちちょー紳士だからさ~」
下卑た口調の不快なこと。
「司馬……」
四谷はオドオドしていた。
「はい。モテない男のナンパほど見苦しい物は無いね」
「あ?」
「そんなガラの悪い具合で釣れる女が居るなら性病の心配した方が良いと思うけど」
「舐めてんの? 舐めてんな?」
「属国民に上から目線は……まぁ道理だし」
ウッターマンの仮面を外す。
男連中のギョッとした顔が面白かった。
「世界覇王……!」
「メギドフレイムで股間を焼かれたくなかったら退いた方が無難だと思うけど」
妹の威を狩るやせ狐。
色々と便利な御尊顔。
多分その気になれば死んだ方がマシな状況に追い込まれる。
固定資産が消滅したり……ね。
 




