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第68話 祭りの後の祭り01


「……………………」


 僕は特に何をするでもなく歩いていた。


 散歩。


 色々と情緒不安定な具合。


 別に嫌なことが有ったわけじゃないけど、どうにも心が腑に落ちないと言いますか。


「捻くれてるよなぁ」


 自嘲しながらあてどもなく。


 ティーンズなので日帰り家出。


 本気で無いのは、だって家出しても向かう先がなかったから。


 ちょっと冷静になる時間が欲しいとも言う。


「結局子どもって事か」


 どうしようもない無力さ。


 一人じゃ何も出来ないから、親は子を愛し、子は親を敬う。


 反抗するのは簡単だけど、


「自分も疲れるんだよね」


 結局其処へ回帰するのだった。


 子どもだって事なのだろう。


 あまりに無力で、誰も守ってあげられない。


「愛……か」


 あまり知らない感情だ。


 好きと嫌いは分かるけど…………人類にとっては、やりつくされ、なのに絶対の正答が無い永遠のテーゼ。


「ちょっと……離して……!」


 そこに女子の声が聞こえた。


 中々涼やかな声だ。


 気になってソッチを見る。


 茶髪で華やかな女子。


 所謂、「垢抜けた」と表現できる女子だ。


 制服も一緒なのだから黄時学院の生徒なのだろう。


 多分外見年齢から言って、僕とそう違いもなさそうだ。


 茶の瞳に映るのは、嫌悪と焦燥と危機感。


 あまり関わりたくないんだけど、義を見てせざるは勇無きなり。


 だって……ねぇ?


 おっさんに纏わり付かれていた。


「…………」


 ――援交。


 ふとそんな言葉が過ぎる。


 違うだろうけど。


 仮にそうなら、普通はもうちょっと穏当に対処するはずだ。


「嫌だって! 話して!」


 その拒絶感が証左。


 となればナンパか?


 この場合の条例への則りかたは、いったいぜんたいどうすべきか?


「何やってんだか」


 道路沿いの夕暮れよ。


 人通りが少ない。


 ついでに近場に休憩できるホテルが。


 ――役満だ。


「あまりガラじゃないんだけど」


 放っておくのも後味悪い。


 正義の味方を気取るつもりは無いけど、このまま見過ごすと感情的にしこりを残す。


 少し、そう思ってしまった。


「変態……!」


「ああっ? 既に金払ってんだぞ!」


 グイグイとおっさんは力尽くでホテルに誘導していた。


 誘導……というか拉致かな?


 強引な手段には変わりない。


 金を受け取って拒絶しているなら、まぁ両成敗だろうけども。


「もしもし?」


 僕が二人に声をかける。


「……………………」


 女子がこっちを見て瞳孔を開く。


「何だよ?」


 おっさんの方は険のある声だった。


「合意無しでのセックスは強姦罪が適応されますよ?」


 親告罪だから被害者に泣き寝入りされると犯罪にならないんだけど。


「うるせえ!」


 怒鳴れば子どもは退散する……との腹づもりだろう。


 あまり意味は無いけれど。


 条例はこっちの味方だ。


 殊更、優位を見せるも趣味じゃ無いけど、まぁ状況が仁義に悖るなら警察の介入もまた已む無し。


「これ」


 ヒラヒラとスマホを振る。


 110。


「どします?」


「……っ!」


「いやまぁ一時の快楽と引き替えに社会的に破滅なさるなら、その覚悟は僕も賞賛くらいはいたしますけども」


「ふざけんな! ビジネスだ!」


「援交?」


「違うし!」


 今度は女子が叫んだ。


「ああ! 此処まで来て巫山戯んなよ!」


 何か、もつれてるなぁ。


 ぶっちゃけ援交の末の修羅場のようだけど、それにしては女子の方が不本意丸出しとの御様子。


 ――何けり?


 しょうがないので通話。


「もしもし」


 既に百十番は見せた。


「っ!」


 おっさんの絶句。


 おっさんは僕を睨み付けて、歯をギシリと鳴らし、そして、


「ちっ!」


 舌打ちして逃げた。


「はああああああ」


 腰が抜けたようだ。


 女子はペタンとアスファルトにしゃがみ込む。


 助かった――こっちの視線で言えば助けられた――で良いのだろうか?


「どうした軽木?」


「今日の晩ご飯は?」


「さてな」


 開けてビックリ玉手箱。


 父の料理は美味しいので楽しみでもある。


 日帰り家出も虚しいなぁ。


 まさに自業自得だけど、おかげでちょっとしたハプニング。


「それでは~」


 父親との電話を切る。


 ピッと。


「え? 警察じゃないし?」


 女子はポカンとして申しました。


「ブラフと言います」


 ヒラヒラと手を振る。


「ぶっちゃけ警察呼んで調書取られても面倒だし」


「助けて……くれたし……?」


「正義の味方ですので」


 それが僕と四谷の出会いだった。


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