第67話 パールハーバーを蹴っ飛ばせ06
システムメギドフレイム。
それがハワイを蹂躙した。
天より注ぐ断罪の光。
熱線による灼火の柱。
僕を襲ったのは、スナイパーライフルによる暗殺。
一応ハワイも米国だしね。
軍部が浮き足立つのも致し方なし。
悲鳴。怒号。爆音。撃沈。
海兵隊の軍事力が根こそぎ破壊される。
ちなみに死者は一人も居ない。
負傷者はいるけれども。
股間のバニッシュは何時ものこと。
この分じゃハワイの兵隊さんは別の扉を開きそうだ。
そこにボクが同情を覚えても何するものぞというところだろうけど、ヒエロス・ロコスの最強部隊を再現する意味でなら軍隊として有益…………か?
およそ蹂躙は全てに及ぶ。
艦隊。航空機。銃火器。
悉く灼熱に沈む。
こうなるから少し不安だったのだけど当たって嬉しい事態でも無い。
いや世界覇王に無礼を働いた意味では、ラピスの感情も頷けるけど。
軽率な行動を取ったネイビーには黙祷を捧げよう。
他にどう応えていいかもわからないので。
無力化され、沈没し、次々と本物になる海兵さん。
僕は本を読むに戻る。
「いいのか司馬?」
久遠の顔が青ざめている。
「何が?」
言いたいことは分かるけど。
今更と言えば今更で。
「米国を敵に回さないか?」
「元からホワイトハウスは敵だしね」
ぶっちゃけ殴られて逆の頬を差し出すほど聖人君子でもない。
僕は別に良いんだけど、ラピスには許し難いことと映る。
その精神性を貶める気は、僕には無かった。
ニュースとネットは大騒ぎ。
第二次真珠湾攻撃。
この場合、僕らが日本人というのが痛い。
あまり宜しくないイメージが付くからね。
悉く兄の立場としては妹最優先だけど。
「その辺をアートはどう思う?」
「国際的不利だすな~」
だよね。
「いちおー正確な報道しますどお……」
「別に良いんだけどね」
今更だ。
先に手を出したのは軍部の方。
ラピスは反撃しただけ。
しかも死者は出していない。
けど米国の報道では一方的に蹂躙したと報道されるのだろう。
死傷者多数のオマケ付きだ。
それを何の抵抗もなく米国人は信じるだろう。
「ま、いっか」
こうしてカーズは考えることを止めた。
ラピスが心に抱える闇は深くて暗くて愛おしい。
僕のために怒ってくれることは光栄ですらある。
だから好きなようにさせた。
兄への愛で世情を敵に回すのなら、それを支えるのが兄の仕事でラピスへの想いと言えないことも無い。
というか別に大戦が勃発してもどうにでもなるだろう。
覇王としてはともあれ、
「僕自身はラピスの味方だし」
「お前はソレで良いのか?」
「もち」
久遠は訝しげ。
「どこまで本気か?」
ソレを読み取りたいのだろうけど、「心底本気」以外の何物でもない。
妹の純情さは何より優先されるべき事だ。
そのためなら真珠湾が灼熱に沈んでも構わない案件だろう。
ホケーッと本を読む。
ラピスはエネルギーを調達して軍基地の壊滅。
徹底的に叩きのめす。
反撃の余地も無いほどに。
それほど僕に対する軍の態度が気に入らなかった逆説の証左だろう。
「健気だね」
苦笑が閃いた。
「そう言う問題し?」
四谷も久遠側の思考。
この場合は「やっていいのか」を提議するモノ。
「ふむ」
アートはラピスの生みだす残骸を値踏みするように見ていた。
メギドフレイムの火を見て何を思うのか。
世界の統治か。
経済の破壊か。
縦横無尽に熱線が生まれ、貫通し、消失させ、ぺんぺん草も残らない御様子。
うーん。
マーベラス。
「国防総省としても頭の痛い案件だろうね」
弾丸一発と軍基地一つの不等価交換。
どっちに重きを置くかは、「ホワイトハウスとラピス次第」ではあるんだけど。
「南無妙法蓮華経」
パラリとページをめくる。
「高度に政略的な次元だねぇ」
他に述べようも無い。
ましてブラコンを拗らせているラピスには、四則演算の原理すら頭から外れている。
ネジと一緒に。
「いっそ米国攻略します?」
これを本気で言うのだから、ラピスは侮れない。
「今日の処はハワイだけでご勘弁」
「はーい」
爽やかに笑って、
「にゃー」
愛らしく僕に抱きついてくる。
超可愛い。
よしよしと頭を撫でる。
それが至福らしい。
お安い観念だけど、僕の方も幸せだ。
「ラピスは可愛いね」
「知っていますけど兄さんに言われると幸福度倍々です!」
そりゃようござんした。
「そんな問題?」
「さてどうだろな。司馬さんは何を考えてんだか……」
四谷と久遠は口の端が引きつっていた。
「確かにね」
と僕もほろ苦い笑み。
さて、ニュースの話題が恐いなぁ。




