第66話 パールハーバーを蹴っ飛ばせ05
ホテルで眼を覚ましました。
三つ星ホテル。
ぶっちゃけ金に困っていないけど、気後れするレベル。
感覚を共有したのは四谷くらいだ。
庶民同盟。
仮面恋人は継続中。
とはいえラピスの事情もあるため、妹と夜を明かした。
心的外傷のフラッシュバック。
それがラピスを苛んでいる。
――何をすれば治るのか?
僕は精神には詳しくないからなぁ。
ともあれ、あやして治めて抱きしめる。
他に出来ないことが残念だ。
ともあれ精神失調を一時的に回復させると、そこからのバイタリティ満ち溢れ、今日もビーチに繰り出した。
飛び出せ青春!
……なのかな?
「兄さん」
「司馬」
「両者共に却下」
サービスシーンは終了です。
こっちの精神が保たない。
正味な話。
「ぶーぶー」
「にゃーにゃー」
何を言ってるんだか。
「くあ」
欠伸を一つ。
パラソルの影で椅子に座って読書。
別に何を読んでもいいんだけど、ネット小説の書籍版を選んだ。
パラパラと。
読書はいい。
ハワイに居ながら日本の情緒を体験できる。
「泳がないのか?」
「昨日泳いだから良いかな?」
「もったいねえな」
何がよ?
肩をすくめる久遠。
「かしまし娘の水着なんて世界富豪でも見られんぜ?」
「その御曹司が何言ってるんだか」
久遠グループは日本でも一角の大企業だ。
当然、久遠は生まれただけで勝ち組。
この場合、僕に言われたくは無いだろうけども。
ラピスがいる時点で世界的テロリストだ。
そりゃ規模が違うのは重々承知で。
「世界覇王に言われてもな」
そうなるよね。
やっぱり。
「久遠はハワイアンにナンパとかしないの?」
「乗ってくるビッチは病気が恐いだろ」
「ご納得」
どこか寂しさの波動が透けて見えたけど、つっつかなかった。
「じゃあ泳いできますか」
「頑張って」
「おう」
視線を本に戻して快適に。
「兄さん」
「はいはい」
今度はラピス。
胸がボヨンとしている水着姿は艶やかだ。
艶やかってこんなときに使うんだっけ?
まぁ魅力的ということで一つ。
「本は楽しいですか?」
「そらま、ね」
読書は楽しむ媒体としては世界共通だ。
世界覇王でも例外では無い。
「泳いで欲しいんですけど」
「一緒に?」
「一緒に」
「まぁそれはいいんだけど」
「けど?」
「少しは自分の魅力に自覚的になって」
「ふむ……」
ふにふにと自分の胸を揉むラピスさん。
「大っきいですよね?」
ですね。
「形も良いと思うのですけど」
反論もない。
「揉みたいですか?」
「すごく」
「にゃ!」
パァッと晴れ渡る笑顔。
ハワイの晴天よりも鮮やかな。
「ではどうぞ」
差し出される体。
その乳房。
フニュンとして形を無尽蔵に変える柔らかさ。
「からかわないの」
チョップを落とす。
ツッコミ程度。
妹を相手だからジョークで済むし、ツッコミにも本気を出さない……というより出せない。
もちろんからかわれるのは面白くないけど。
「こっちは本気なのですけど……」
それもどうよ。
「ビッチに靡いちゃいけませんよ?」
「ビッチ……ね」
「ええ」
「いいけどさ」
「はい。宜しいです」
ボケか?
本音か?
しばし勘案せざるを得なかった。
「では」
パタンと本を閉じる。
栞を挟んで。
カクテルの置いてあるテーブルに本も置いて、立ち上がろうとすると、
「?」
こめかみに軽い衝撃。
ついでパンと破裂音。
この場合は銃声か。
銃弾は音速を超えるので大きな音がするのだ。
大気の壁って奴ね。
弾丸が……浜辺に落ちた。
およそのことは分かるけども、その……つまり……スナイパーライフルで狙撃され、それをラピスお得意の『司馬セーフティ』が防いだという意味で。
こめかみに当たった銃弾が防壁に弾かれて浜辺に落ちた…………が、多分一番現状に近似する表現ではあろうけども。
「えーと……」
燃料に火が付いた。
燗と燃える赤眼。
「ああ」
やはりこうなるか。
「では兄さん? 少し失礼をば」
「あまり本気にならないでね? こっちとしては無病息災だから気にすることも無いよ」
「ええ。思い知らせてきます」
それを分かっていないと世界は言うのだけど……ま、いいか。
好きにさせよう。




