第61話 乙女の少し06
駅のベンチでボーッと待つ。
とりあえず予約したデート。
その待ち合わせ時間。
僕はシャツにジャケット。
下にジーパン。
小物は腕時計くらいか。
普通に何時もの格好なんだけど、お洒落に興味がないので仕方がない。
一応ラピスの助言は聞いたけど、とても不満そうでした。まる。
「お待たせ」
四谷がやってきた。
ワンピースの上にカーディガン。
靴はデート用の厚底サンダル。
茶の髪にリボンが結んであった。
「おおう」
少し気後れ。
女子のおしゃれは化けるね。
制服姿でも艶やかだったのに、私服姿は更に魅力的だった。
破壊力が半端ない。
「駄目だった?」
「可愛い」
率直に、そう述べる。
実際可愛いのだ。
ルリには及ばないけどね!
「ほんと?」
赤面の四谷。
「あたしに似合わなくないかな?」
言いたいことは分かる。
僕と四谷と久遠は男友達のような関係だ。
四谷は茶髪。
久遠は金髪。
ちなみに僕は普通の黒。
なのではっちゃけ具合が違う。
その四谷が女の子らしい姿になると、「何を言うべきか」と相成る。
それも確かに事実で、けど今の目の前の茶髪美少女は、たしかに女の子をしていた。
「じゃ、水族館に行きますか」
「あんさ」
「はいはい」
遠慮せず言ってご覧なさい。
叶えるかどうかは別だけど。
「手、繋がない?」
「構わないけど」
スッと手を取る。
大人しくなる四谷だった。
借りてきた猫の如し。
駅二つ。
水族館に入場する。
「可愛い!」
とは四谷の感想。
クラゲがいたく気に入った御様子。
脳が無いのに生きているのは羨ましい。
反射神経だけで生きられれば人間の世界ももう少し平和になるのに。
クラゲのように生きられたら悩みなんて吹っ飛ぶだろう。
「デートでいう?」
半眼の四谷でした。
「へぇへ」
僕としては肩をすくめる。
色々と見て回る。
僕が一番気に入ったのはリュウグウノツカイ。
その標本。
何を意図してそげな進化をしたのか?
コンコンと問い詰めたい一品。
深海魚にも苦労はあると言うことだろう。
「長いね」
「意味もなく長いよね」
「食べたら美味しいかな?」
「深海魚は白身のフライにされるからあながち夢物語じゃないかと」
「ふーん」
繁々と。
リュウグウノツカイ。
パない。
本当に、何のためにこんなに長くなったのか? ――ちょっとよく分かりませんが自然淘汰の一端なら何かの理由はあるのだろう。
「写真撮ろうよ」
「いいけどさ」
リュウグウノツカイを背景に四谷のスマホで自撮り。
隣には、死んだ目の僕が映っている。
これは何かの罰ゲームですか。
「えへへ」
そんなことで四谷は嬉しそうだ。
安い出来だこと。
「水族館って楽しめるんだね~」
「一応お金がかかっていますので」
「もうちょっとロマンに浸らせてよ」
「水槽に封じられてる魚たちにこそ言える言葉だね」
「むー」
ロマンがないのは今更だ。
基本ピエロ体質な物で。
「ところで」
僕が尋ねる。
「何?」
「ハワイとか行く気ない?」
「ハワイ……」
「ラピスからそんな案が出てる」
「ワールドジャンプ?」
「だね」
「パスポート持ってないんだけど……」
「世界制覇王国の国王陛下が口をきけばいいし?」
「むぅ」
そこは四谷の悩みの種なのだろう。
世界制覇王国。
その覇王陛下。
つまり僕だ。
「折角の夏休みだし」
「サイトシーイング?」
「アートも来るから純政治的にも問題は無いはずだけど」
「あー……」
世界経済の大動脈。
シルバーマン財閥も色々と便利だ。
まず以て財閥の背景が無くとも、ラピスは普通に押し通してしまいそうだけど。
ちょっと怖いけど憎めない。
そんな未来の愛妹でした。
南無八幡大菩薩。




