第37話 私の愛妹は凶暴です06
大統領はホワイトハウスの意向で記者会見を開いた。
その映像はスマホで確認できたけど、僕は講義に集中。
隣のラピスがホケーッとスマホで見ている。
色々と思うところもあるのだろう。
記者たちとしても灼熱兵器の威力は知っているし、その応用性と想定範囲は理解をあからさまに超える。
その上で米国の強硬な態度は苦笑を誘った。
まぁ大統領の股間が撃ち抜かれればね。
股間を灼かれた大統領では説得力に欠ける。
いやニュースにはなるんだけど、案外新聞社は理性的で米国とラピスのどっちもを立てるような言い回しでお茶を濁していた。
政治色の強い米国ですらそうなのだから、日本が強行に断じることは出来なくて当然だった。
日本のジャーナリストは空気を読むのが上手いから。
なんかラピスが魔王に思えてきたな。
その内ガンダムが造れないか聞いてみることにしよう。
中国もまた思うところがあるらしい。
何せお騒がせしている僕らが生粋の日本人。
ある意味で主国として日本を仰ぐ形になるのが世論で反発を呼ぶとのこと。
声明も発表しているけども、あくまでニュースで。
さすがに演説をぶち込まれれば、股間を灼かれる可能性があるためだろう。
「小賢しいですねぇ」
妹は千里眼でも持っているのか。
共産党の――※自主規制――の股間に、「ファイヤ」と神罰執行。
南無八幡大菩薩。
十五億人を敵に回す……わけではない。
中国は都会と田舎の落差があるいは発展途上国以上で、あまりに隔絶しすぎ、「ぶっちゃけると総合的には農業国」とはラピスの評。
都会でこそ共産党は猛威を振るえど、田舎で畑耕している国民は別に僕らを何とも思っていないようだ。
ネット民もほぼ都会に限定される。
まぁ国土が広いんだからチンギスハンでも統括できないレベル。
「……………………」
ちなみに現状講師の微妙な視線が痛いけど、当の本人スルー気味。
認識はしているのだろう。
世界の裏側さえ爆撃できる神眼の持ち主だ。
望遠鏡でウィルスをみることは出来ないけど、この理屈が一分でもラピスに通じるなら…………もうちょっと世界は平和かも。
休み時間。
「あ、台湾が」
とポツリと零すラピス。
「何かしたの?」
「宰相閣下?」
四谷と久遠がラピスに問う。
僕を含めて、基本的に学院では、この四人で行動している。
他の生徒は怯えるか興味を持って弾かれるか。
こと宰相閣下の機嫌を損ねると神罰兵器の餌食になる。
「腕の一本は覚悟すること」との訓令行き届き、パーソナルスペースは確保できた。
「台湾が兄さんを支持する声明を出しました」
「あー……」
頭の痛い。
この場合は立場上。
元々台湾は親日だけど、これは国民性と言うより……むしろ国家政争に分類される。
中国が侵犯した際に、もっとも即戦力として期待されているのが日本と日本駐屯のアメリカ軍。
よく散見される、「台湾危機」の一種。
そこに輪を掛けて破滅的な軍事力が近距離に勃興すれば政治的にも頼りがいがあろう。
つまりこの場合は、共産党に対する掣肘としてラピスを頼ったわけだ。
米国もこっちを批難しているので、大人しくしているのかなと思ったけど、映像を通して得たラピスの破滅性は、国政として座視できぬものだったらしい。
「臣国として扱うの?」
「そのつもりですけど」
世界制覇王国にとって地球全ての国家は『属国』。
その中でも王国を支持する国は『臣国』と扱われる。
後者はメリットとして無制限のエネルギー供給を下賜される。
「どこから調達するし?」
四谷が胡乱げにラピスを見ると、
「ここ」
ラピスは豊満な胸の谷間をチョンチョンと叩いた。
「えーと?」
首を傾げる四谷。
僕と久遠も瞳の彩りは同じ。
何を言ってるんだろう此奴は……的な疑念がリングワンデルングしてしまった。
たしかに人体にエネルギーは存在するけど、普通の人間は食事分のエネルギーしか保有していない。
肥満体質の場合はもうちょっと多いか。
「体内に露骨特異点を仕込んでるから」
「…………」
さすがに沈思黙考。
「?」
四谷と久遠は分からないようだ。
「特異点が……露出してるの……?」
「はあ」
――だから何?
ラピスの赤い瞳はそう語っていた。
灼熱ビーム。
ワールドジャンプ。
なおその二つを融合させたシステムメギドフレイム。
熱量とワープで世界中何処にでもビームを配達するシステムだ。
あらゆる全てを……それこそ世界中を殲滅ならびに無力化できる超戦力。
その無制限のエネルギー供給の根幹が其処なら、「世界を破滅させる程度は」は全く傲慢じゃない。
むしろ地球や太陽系程度なら一日経たずに滅ぼせる。
もはや戦術や戦略どころではない。
あるいは政略ですら程遠いだろう。
星略レベルの脅威にして戦力……純軍事的に「人類を超越した個人」の再現とも言えるフィジカルネメシスだ。
「時空検閲は?」
「一応特異点物理学で調整しておりますのでご心配なく」
本当に、「何でもない」様に言ってのけるのだ。
まさしく赤眼の魔王。
私の愛妹は凶暴です。
オンマユラキランデイソワカ。




