第26話 五分で出来る世界征服01
「吾妹子に恋ひすべながり胸を熱み朝戸開くれば見ゆる霧かも」
今日は日曜日。
いつも通りに起きて朝食の準備。
「兄さんと朝を迎える……」
「光栄だね……」
ラピスとルリはコーヒーを飲んでいた。
ミルク砂糖ありありで。
いいんだけど。
僕はブラックで飲みながら、ダイニングテーブルに朝食を並べる。
フレンチトーストとベーコンとサラダ。
ついでにフレッシュジュース。
「いただきます」
ということで。
いい加減ラピスの存在も馴染んできた頃。
一週間ほどになるか。
未来からやってきた妹。
その目的は世界征服。
「何の冗談か?」
とは思えど未来人の侵略はハリウッドの定番。
ここは日本だけど。
「兄さんのフレンチトースト。至福です。ああ、こんなに幸せで良いのでしょうか。未来ガジェットで世界を灼き滅ぼしたい……っ!」
そりゃようござんした。
でも朝食嬉しさにて簡潔にハルマゲドンを起こされると、色々と問題が併発しそうで怖いんですが。
「ルリは? 美味しい?」
「ばっちり……」
はむ、とトーストを食む。
うーん……マーベラス!
ルリズム原理主義過激派にしてみれば生きた御本尊だ。
ありがたやありがたや。
まさに妹萌え。
「兄さん?」
ラピスが現実に引き戻す。
愛らしい声は、数年育っても変わらないらしく、僕の耳が心地よく、あらゆる妹萌えを凌駕する妹萌えを喚起させられる。
「今日のご予定は?」
「布団を干して茶を飲む」
「すっかり主夫ですね」
「ルリと結婚するための花嫁修業だよ」
「あう……」
悲しげに目を細めるルリ。
「僕が好きでやってるから気にしなくて良いよ」
ルリの頭を撫で撫で。
「私も撫でてください!」
ラピスも……まぁ妹か。
「はいはい」
もう家族として受け入れていた。
ラピスは僕と同衾して寝入るため、あやすのは僕の役割だ。
心的外傷で悪夢をフラッシュバックするラピスの業で僕の罪科。
色々という箇所箇所はあれど「なんだかなぁ」でファイナルアンサー。
「じゃあ電気屋さんに行きませんか?」
「何故?」
「世界征服のためです」
方程式の構築が僕とラピスでは食い違うようだ。
「電気屋さんを襲うの?」
「それは強盗です」
「だよね」
その程度の常識は共有するところらしい。
「では?」
「ビデオカメラを買いたいです」
元気溌剌。
「まぁ君のお金なんだから好きに使って良いんだけど」
さすがに一兆円渡されても使い途が無い。
「デートですね!」
「あう……」
ラピスとルリの意見の相違が面白い。
「ルリも行きますか?」
「……無理……」
「一応セーフティ張ってますので太陽光は防ぎますけど」
「未来の私なら……分かるはず……」
「まぁ人間不信ですよね」
引き籠りが簡単に治るなら、苦労は無いわけで。
「ラピスはどうしてそんな活発になったの?」
「んと……色々と生き急いでいますから」
「……?」
「基本兄さん有りきですね」
「にゃ」
「軽木ズムとでも申せましょうか。兄さんの語彙を借りるなら」
「軽木ズム」
「軽木至上主義。兄さん原理主義。兄さんしか見えないので、他者を気にする必要を感じないんです。だから人類が殲滅されても私とルリと兄さんだけは、生きていける環境を整えるつもりですし、その一端は示しました」
司馬セーフティね。
だから講義中も爆睡できるわけだ。
「そげなわけでデートしましょう」
「いいけどルリは大丈夫?」
「えと……その……」
「嫌なら断るよ?」
「そうじゃなくて……」
「お兄ちゃんに何でも言ってみんさい」
「好き……」
ぐふぅ!
喀血ってレベルじゃないよ。
「だから……ラピスお姉ちゃんと……楽しんできて……」
「相承りました」
慇懃に一礼。
そんなこんなで朝食終了。




