第24話 家族になろうよ05
夕食は鍋でした。
モツ鍋。
「幸せです」
「幸せ……」
ラピスとルリにも好評のようで。
「創った甲斐があったよ」
「美味しいです」
「美味しい……」
アルビノ美少女二人から言われると照れるね。
その時は、あまりに貴重で、二人っきりの吹き抜け構造みたいな無情な風が通り過ぎる沈鬱した空気での家庭だったのに……今じゃ三人目がはしゃいで無理矢理にでも笑わせて貰っている。
「なんだか家族みたい」
「家族でしょう?」
「僕とルリはね」
「え……?」
ポカンとラピスさん。
「何……言って……る……の…………? ……………………兄さん?」
「ラピスには未来の『兄さん』が居るでしょ?」
「――――――――」
お顔が青白くなっていくラピス。
サーッと引くように血色の悪さが目立った。
「待って……待ってください兄さん……え……え……? それは……つまり……」
「何?」
「兄さんと私は……」
兄さんと私は?
「……………………家族じゃ……ないの?」
「僕が護るべきはルリだけだよ」
「に……い……さん……」
蒼白。
そう呼ばれる顔色。
「まぁだいたいの予想は付くんだけどね」
軽やかに僕は言った。
「ラピスは僕に逃避してるんじゃない?」
「そんな……こと……」
その口調に説得力がないのだけど。
むしろ逆説的に負の想念の証左だろう。
此処では言わなかったけど。
「――――――――っ!」
ストレスか。
トラウマか。
双方か。
精神に対する劇薬とでも表現すべきか……突発的かつ過剰に反応した内臓が、食べていた物を全て吐き戻させた。
「ぜぇ……げひ……ぜぇ……ぜぇ……」
ラピスは嘔吐と共に痙攣し、白目を剥いて倒れる。
「ラピス!?」
さすがにコレは予想していない。
原因が那辺にあるとしても。
吐瀉物を丁寧に拭って、リビングのソファに横たわらせるけど、あまりなストレス障害だったのか――あるいは他の要因か――分からずとも触れちゃいけないタブーに触れて祟ってしまったのは間違いなかった。
「そんなにショックかなぁ」
そもそも僕に依存して欲しくなくて言ったんだけど、ラピスのためにならなかったか。
ダイニングに戻って吐瀉物を吹き終え、
「じゃあ鍋を再開しよっか」
ルリにそう言うと、
「お兄ちゃん……?」
「何か?」
「バルス……」
菜箸が僕の両目に突き刺さった。
「目がぁ! 目がぁ!」
床をのたうち回る。
「何するのさ!」
「こっちの……セリフ……!」
ルビーの瞳に灼炎がちらついていた。
ルリが本気で怒っているらしい。
珍しいこともあるものだ。
けど嬉しかった……何にもまして周りを避け、顔色をうかがっているルリには有り得ない感情の選択……その情熱が、愛すべき人として、とても嬉しい。
「お兄ちゃんが何かした?」
「ラピスお姉ちゃんを……蔑ろにした……!」
「してないよ」
事実を事実の通りに言っただけだ。
ラピスにはちゃんとお兄ちゃんがいる。
僕の妹はルリだけだ。
そりゃこうなればラピスが未来のルリだって認識しなければいけないけど、それはそれとしてルリと同一視は出来ないのも事実で。
「じゃあ聞くけど……」
「幾らでもどうぞ」
「私が……お兄ちゃんを……家族じゃないって……言ったらどうする……?」
「スカイツリーの展望台から投身ダイブ」
ルリと家族じゃ無いなら、生きていても仕方ない。
「ラピスお姉ちゃんも……同じ気持ち……」
「それは……」
そうだけど。
「けどラピスの僕への愛情は副次的な物で」
「じゃあ……私の……愛情も……副次的……?」
「違って欲しい」
「同一人物……だよ……?」
「別個体だけどね」
「少なくとも……」
ぐっと力を込めてルリは言う。
「私も……お姉ちゃんも……司馬軽木お兄ちゃんを……信仰している点で……相似するんじゃないかな……?」
「むぅ」
たしかに僕は、ルリだけを護りたくて、ルリだけが家族だ。
ルリの方も、同じと信じたい。
ならその延長線上にいるラピスもまた……僕に僕同様の気持ちが……?
「ラピスお姉ちゃんに……優しくない……お兄ちゃんなんて……嫌い……」
――ズガガーン!
雷鳴が鳴り申しました。
「見捨てないでルリ!」
「再度になるけど……ラピスお姉ちゃんも……同じ気持ち……」
「…………」
「人の気持ちを……考えてほしい……。お兄ちゃんには……優しい人で……いてほしい……。私が好きな……お兄ちゃんは……私を好きな……お兄ちゃん……。そこに……私も……ラピスお姉ちゃんも……差異は無い……よ……?」
「……………………」
頭をガシガシと掻く。
「わかった。ごめん。ラピスはルリだったんだね」
「そう……」
「お兄ちゃんのこと嫌いになった?」
「ラピスお姉ちゃんに向ける感情次第」
さいでっか。




