第23話 家族になろうよ04
「司馬さん。ラインしない?」
却下。
「バスケ部入らない?」
却下。
「写真撮らせて?」
却下。
「付き合ってください!」
却下。
以下、似たような展開。
「くあ……」
僕は、自分の席で牛乳を飲みながら欠伸をした。
今日は、購買部でパンと牛乳を買って、教室で食べている。
当然……周囲はいつものお三方。
ラピスと四谷と久遠。
殊に学食を利用しても良いんだけど、このトリオは僕という没個性には眩すぎ、なおかつ妬み嫉みの視線の原因ともなる。
防カビ処方というか防嫉妬処方が確立していない今、この世界は狭すぎる。
「牛乳飲んでもおっぱい大きくならないよ?」
「喧嘩売ってんの?」
「いえ、畏れながら進言させて貰っているだけです。ご忠告とは畏れ多く、僭越ながらご確認の程を……と」
丁寧な口調のラピス。
それがつまり喧嘩を売っているのだろうけども。
「ラピスは部活しないの?」
「兄さんが入るなら其処に」
「僕はルリのために早く下校したいから」
「だったら小生もその通りに」
何故か四谷に睨まれました。
――だから何故よ?
ラピスが現われてからコッチ、四谷の精神は情緒不安定で、怒りやすく、御しにくく、しかも不条理と来る。
「いっぱいイチャイチャしましょうね? に・い・さ・ん? 家でなら誰の目にも止まりませんからやりたい放題ですよ?」
四知……という故事がございまして。
「ルリとね」
「あはぁ」
その反応は止めない?
「妹さんは元気か?」
「ま、何とかね」
「親御さんの葬式から数日。ショックもでかいだろ?」
「そーだねー」
ラピスの登場が劇的すぎて、何処かに不幸が吹っ飛んでいる気がしないでもない……いや確実に払拭されている。
「僕の唯一の家族だ。血反吐吐いても護るよ」
「兄さん……」
少し案じるようなラピス。
彼女にしては珍しい表情の選択だ……。
何かあるのだろうか?
大凡の想像程度は出来うるけど……、
「ま、いいか」
四谷と久遠の前では問いただせない。
デリケートな問題だ。
レタスサンドをもぐもぐ。
パックの牛乳をチュー。
「結局、司馬さんはどうしたんだ?」
「何が?」
「司馬家の金銭事情」
「株を転がして儲けたお金を、家族で共有しているだけですけど? 何事も知恵と勇気があれば解決しないことはありませんし」
「株……」
まぁね。
そのね。
それね。
「どう考えても有り得ない」
とはいうけど事実です。
ハイレバレッジをガン乗せで一点投資。
場合によっては某都湾に沈められそうだけど、その時はその時と言うことで……あまり考えても生産性が無い。
南無。
「投機できるの?」
「誰だって出来るでしょ?」
「生活費稼げるほどに?」
「細やかながら」
一兆円のどこが細やかなのかは考慮しないとして、
「自重してね?」
「まだまだこれからです」
今度はトゲの無い、ヒマワリの様な笑顔。
可愛くて、可憐で、
――ズルいなぁ。
……そんなことを思ってしまう。
「むー」
四谷には面白くないらしい。
たしかに四谷では両親の死んだ司馬家の財経について、どうにか出来たとは僕も思えないんだけど、友情にだって限界はある。
殊更、コンプレックスを持たれても、むしろそっちの方に覚えさせるに申し訳ないと想ってしまうのが僕で。
何が彼女を其処まで駆り立てるのか。
おっぱい?
「兄さん」
弾む声。
押し付けられる弾力。
一種の大量破壊兵器だ……抑止力にならないどころか、むしろ戦いを誘発させる類の持ってちゃいけない国際法。
「むー」
半眼で四谷に睨まれる。
「何か?」
「司馬の不潔!」
「いやぁ。照れる」
「褒めてないし!」
知ってる。
「マジ信じらんない! 妹とヤるなんて!」
「妹馬鹿って意味でなら正鵠を射てるよ」
「だから……それが……! ホントなに考えてんのって話! マジで通報案件だし! 条例違反ってわかってる!?」
「落ち着け四谷」
久遠が言葉で制止する。
「妥協案はソレで良いの?」
何とも純朴に……けど何処までも不思議そうに……ラピスは久遠に向けて、そんな御言の葉を放った。
「だからなんで妥協案?」
どういう計算を元に……か。
推理は出来るけど何だかなぁ。




