第120話 夢の果てにて在りし物05
米国の暴動は激しさを増していた。
それは中国にも言えることだ。
民事政策はラピス有利。
なお国状として、もはやラピスに反抗も出来ない。
民衆も世論もラピスを味方した。
既にラピスが大量虐殺を起こしたという情報はデマだとバレている。
臣国がそう明言した。
ネット民も面白い物で、ホワイトハウスの情報を鵜呑みにしていた連中が丸ごと親王国派になったりして。
冬も近づく今日この頃。
「そろそろチェックメイトですね」
ラピスはそう呟いた。
おでんを食べながら。
ちなみに僕の好物はグズグズになるまで煮込んだ大根。
「はむ」
ダシが美味しい一品です。
我ながら今回のダシの取り方は成功かもしれなかった。
うーん。暖まる。
妹と一緒に食べるおでんよ。
「結局ラピスの思惑通り……か」
「兄さんを世界で一番の偉人にするのが私の望みですので」
陛下が宰相の御飯を作るのはありですか?
言ったら気にするので言わないでおくけど。
おでん。
「米国の富裕層はどうしてるの?」
「海外に逃げています」
「いいの?」
「基本口座は徴収して、課税できますので」
サラッと言ってるけどクラッキングだよねソレ……。
元よりラピスのクラッキング能力は世界中のお茶の間をジャックするレベルだから今更感はあれども。
「どこにも逃げられない……と」
「金庫も開けて解放してますしね」
富裕層には悪夢だろう。
コンニャクはむはむ。
「そんなに横暴して大丈夫?」
「いえ、別に貧民層を救いたいとかじゃないんですけど」
それは分かる。
ラピスとしても財産分配が一時的な物でしか無いのは理解在るはずだ。
本当にそう出来はするのだろうけど、まず以て社会機構を根本から破壊する必要がある。
ことに米国に仕掛けた意思表明は一種キャンペーンであって、別に共産主義に奔ったわけでもない。
思想的にはむしろ保守だ。
要するに「貧民層の支持を得たいがために」とのこと。
事実米国以外の国で富裕層重課税は執り行っていない。
米国のエリート層は無念の下唇を噛んでいることだろう。
他人事だけど。
「世界征服かぁ」
「兄さんにはご迷惑ですか?」
「まさか」
あえて道化を演じた。
僕の悪癖だ。
「目に見えない意味での権力は実感がないってだけ」
捧げられれば有り難く貰うけど……有効活用の術が思いつかないと言いますか。
ゴボウ天。
「世界平和を望むなら全ての人間を律しますよ?」
「いらないかな?」
自分と隣人さえ無事ならそれで世界平和だ。
国家の武力の時代でも無い。
全面戦争はありえない。
ラピスがその悉くを平定してのけた。
赤眼の魔王は今日も元気です。
「結局大戦は起きなかったね」
「たしかに其処は意外でした」
親王国派と反王国派。
大国と臣国の世界大戦。
そこの間隙を縫うはずだったのだけど、ソレより先に敵方の世論が瓦解した。
ちょっと予想外で、けれど戦争は起こらない方が良いのも事実。
「一周回ってスポーツマンシップの勝ち……か」
「そゆことですね」
二人揃って苦笑。
「大丈夫……? お兄ちゃん……?」
「それはラピスに言ってあげて」
僕は何もしていない。
ただラピスの味方をするだけだ。
白滝。
「お姉ちゃんは……偉い……」
「ルリも頑張ってください」
「んと……お姉ちゃん……みたいな……?」
「さすがに其処までは求めませんが」
自分の規格外は知っているのだろう。
宇宙その物を知って再構築する身だ。
しかも自分で自在に彩色できる。
いっそシステムメギドフレイムが可愛らしく思える程度には、規格外の妹でした。
煮玉子。
「ん?」
あれ……。
そうすると……。
「どうかしましたか兄さん?」
「えーと……」
「はいはい?」
「何でも無い」
ラピスはずっこけた。
餅巾着。
「世界激変の瞬間だなぁ」
「大統領選挙ですね」
「だね~」
タカ派とハト派。
別に気にする重大事でもないけどさ。
すじ。
「米国だけ落ちなくても支障は無いよね」
「まこと以て」
世界制覇王国の夜明けも近いなぁ。
一番可哀想なのは、僕とラピスが居座っている日本だ。
熱兵器を喉元に突き付けられながら、親しい大国からストップが掛かっているというプレッシャーよ。
玉虫色の意見も考え様。
けれどあまりに政府にとっては他人事でなく。
大混乱で、支持率急下落。
賛成も反対も一億数千万の意見があるわけで、どっちに迎合するかで政治家やニュースキャスターや記者たちは右往左往もしましょうぞ。
「別に今すぐ帰順しろとは言いませんけどね」
ラピスははふはふと大根を食べていた。
「さすがは兄さんです」
「ん……。お兄ちゃんは凄い……」
そんな妹たちの愛らしさの方が、僕にとっては凄いんだけど。
僕の作ったおでんを妹が食べるだけで幸せ絶頂にござります。
それより何より……、
「お姫様はキスで目覚める……か」
そっちの方が重大事。




