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第119話 夢の果てにて在りし物04


 チャプンと湯面が跳ねる。


「良い感じです」


 嬉しそうなラピス。


「えへ……」


 いっちょ前に照れているルリ。


 三人でお風呂に入っていた。


 狭いんだけど。


 体を重ねる形で三人。


 お湯が溢れ出て、その体積が僕らの分。


「ところでルリは狙われないの?」


 少し考えることがあった。


 ラピスは戸籍上個人だけど、実は未来から訪れたバック・トゥー・ザ・フューチャーことルリだ。


 例えばルリが死んだらどうなるのだろう?


 そんなことをラピスに聞いてみた。


 いわゆるタイムパラドクス?


「狙われるでしょうけど私個人とは関係ありませんね」


 なんてラピスの返答。


「別にルリが死んでも殺されてもラピスには影響しない」とのこと。


「なにゆえ?」


「んーと……」


 しばし天井を見上げて言葉を吟味される。


「未来から来た……というのが在る意味で語弊ですので」


 そんな言葉。


 当然、


「?」


 となる。


「ええと……何と話した物でしょうか」


 時間の行き来では無いという。


「では何か?」


 と問えば、


「過去情報の複写です」


 そんな答えが返ってきた。


 かこじょーほーのふくしゃ……とな。


「ちょっと頭の悪い例えを持ち出すならブロックや積み木を想定して貰えば良いですね」


 積み木とな。


 積み木……。


「積み木遊びの子どもを神様とします。その神様が積み木を組み立ててお城を作ります。これが宇宙創造と定義しましょう」


「無から一を創るわけだ」


「はい。構成物質を積み上げてお城という名の宇宙を構築するわけです。この場合の創造者を数学の世界ではラプラスレコードと呼びます」


「それは前に聞いたね」


 チャプンと湯面が跳ねる。


 世界を記録するモノ。


 ワールドセーフティ。


 あらゆる意味での宇宙の運営を演算する機能。


 オカルトに片足ツッコんでいるけど、ラピスの存在が根底を証明していた。


「構成物質を編成してお城を積み上げます。その過程が宇宙創造で、途中まで出来上がったとします。その途中が今の時間としましょう。『アー』という途中経過の時点です」


「にゃ~……?」


 ルリは良く分かってないっぽい。


 小学生に求める知識でもないのだけど。


「そこから更に積み上げてお城の完成を目指します。つまり未来ですね。兄さんが死んで、私がインタフェースになった時間を『べー』としましょう」


『アー』と『ベー』……。


「で、インタフェースである私はラプラスレコードの名代で演算の肩代わり。つまり宇宙構築に口を出せる立場です」


「冷静に考えると無茶苦茶だね」


 要するに宇宙を好きに弄れるということだ。


 もはやグラ〇ゾンよりタチが悪い。


 イデアの名を冠したオレンジ色のロボットの威力に匹敵しまいか?


「否定はしません」


 チャプン。


 おっぱいって本当にお湯に浮くんだな~。


 凄く揉みたいけど、今は自重。


「『ベー』まで組み立てた城が気に入らず、一旦『アー』まで戻しましょう……と私が提案します」


「えーと、つまり……」


「兄さんが死んで生きる意味の無くなった世界の運営がこの場合の『ベー』に値します」


「にゃるほど」


「ここで積み木遊びの子どもが私の記憶通りに一度『アー』の時点まで積み木を解体するとします。つまり『アー』と全く同一の構築を為すわけです」


 ふ、とラピスの吐息。


「この場合、創造者の視点で見て時間は遡行したことになるのでしょうか?」


「『アー』から『ベー』に偏移して……その後、別の口実で『アー』に造り戻す……積み木その物は元に戻ったけど創造者の時間は……ああ、そゆこと」


 つまり……過去情報の複写なわけだ。


「ご明察です」


 朗らかな声だった。


 声質相応に笑っているのかも知れない。


 体を重ねて三人で入浴しているので後頭部しか見えないけど。


「時間その物は巻き戻らず……単に過去の宇宙の記録を再現して擬似的に私を除いた宇宙その物を再構築したわけです」


「たった数年を巻き戻すために宇宙その物を?」


「でもそうしないとハワイの天文台がパニックを起こしますので」


「ああ」


 そりゃそうだ。


 地球の状況だけ再構築すると、宇宙との連携が取れなくなるわけだ。


『ベー』から『アー』に戻るには、宇宙全てを書き換える必要がある。


「出来るの?」


「ですから此処にいるのですけど」


 ラピスの存在が証左というわけだ。


「例えば時間を止める魔法があったとします」


「はあ。よく見かけるね。先駆けはジョジョだっけ?」


 本当によく見かける。


 ファンタジーでは鉄板とも言えるだろう。


 普通にボスキャラが気楽に使うよね。


 なんというか時間関係の能力って強くて格好良い。


 あれ? ラピスもそんな感じなのかな。


 いや確かに世界制覇王国の参謀長ではあれど。


 ――で、その時間停止が何か?


「で、地球の時間だけを止めるとどうなると思います?」


「んーと……色々といやな思惑が出てくるんだけどな」


「正解です。地球の自転も公転も止まるので太陽系から置いていかれて、銀河系にはぶられて、膨張宇宙の波に乗れなくなります」


「言われてみれば」


「宇宙全ての素粒子や量子の運動とスピンを止めて保持し……再度運営するには宇宙全ての素粒子や量子の運動とスピンを過不足なく再現する必要が生じます。たった十一秒止めるだけで宇宙の停止と運動再開という宇宙総算のエネルギーを二度調達する必要がありますよね?」


「だね」


「だから全体宇宙論は時間では推し量れないんですよ」


 そこまで分かって数年を取り戻すために宇宙を再構築する君も凄いけどね。


「私の場合はインタフェースですから」


「露骨特異点は?」


「その技術も、まぁある種の才能があった模様で」


「僕の舌先三寸で宇宙が滅ぼせる?」


「兄さんがソレを望むなら」


「ところでルリは大丈夫? さっきから黙ってるけど」


「お兄ちゃんとお姉ちゃんの話……難しい」


 ぐう萌え。


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