第118話 夢の果てにて在りし物03
「アレは司馬さん?」
食事を終えて茶の時間。
湯船は洗って風呂を入れている。
ラインのコメント。
発信者は四谷。
「アレって何のこと?」
「大統領の演説で……」
システムメギドフレイムが落ちた事ね。
「ラピスに相違ないよ」
「司馬は暴動を扇動したんだよね?」
「そう言われてるね」
因子の一つであることは否定しない。
実際に表明もしたし、エシュロンも記録したとのこと。
ラピスが言うには「何時でもクラッキングして情報操作できるんですけど」なんてまるで「レンジで料理を温めることもできるんですけど」みたいな口調だった。
世界に責任を負う世界覇王としてはどう対処すべきか。
此処まで来ると割腹しても責任取れないレベル。
「大丈夫?」
「別に僕が銃撃されたわけじゃないしね」
元から抱えている火種だ。
人類文明の成れの果て。
米国で言うところの経済格差は、日本で言うなら少子高齢化が該当するだろう。
どんな国家も永続しないというわけだ。
ついで臣国の情報は属国にも甘言に当たる。
――無尽蔵のエネルギー供給。
そのアドバンテージは軽からじ。
さらに、別に支配するわけでも搾取するわけでもない。
現代社会の黎明期。
アジアを植民地にした欧州国家とは対応が違う。
まぁ元より覇王陛下も宰相閣下も「全ての国を統治して何が楽しいのか?」との疑問がある。
そりゃ放任主義にも成りますわ。
要するに僕の我が儘が世界に浸透すれば勝ちなワケで。
「貧民層の親王国派」
「大統領の演説の空しさ」
米国の陥落は日に日に迫っていた。
「本気で世界覇王に?」
「愛すべき妹が望んでるんでね」
王権神授説……というか王権妹授説。
妹の力という奴だ。
「日本はどうすんだ?」
とはグループに加わった久遠の意見。
ん。たしかに。
じわじわと金融不安は押し寄せる。
久遠の家も、高度に政治的だから何かと不安もあるのだろう。
アートの方は楽観も甚だしいけど、こっちは世界恐慌すらも稼ぎ時にしかならないので、別に新王国派だろうと逆だろうと構いはしない力を持つ。
ちょうど久遠グループあたりが国家と命運を共にしているので、探りを入れるのは不自然じゃない。
それにしても日本の行く末ね……。
「生まれた祖国ではございますが」
だからって何を斟酌するでも無いけど。
「総理大臣も焼くのか?」
「いえ、さすがに」
とコメントして、
「ラピスならやりかねないけど」
と追記。
まぁ悉く便利なメギドフレイムではありますれば。
行きすぎた科学は魔法と区別がつかないとも言いますし。
まして属国は覇王陛下のご逝去に倣って滅ぼされる……と言われれば国民的には他に選択肢も無いような。
そこに加えて今回の件だから何だかなぁ。
「久遠グループはどうするの?」
「さすがに重役会議の内容までは知らんが……」
「だよね」
「けど米国も顧客だしな」
「しがらみというかレガシーコストだね」
「そう言うなよ」
「発展途上国をターゲットに電気自動車を売れば?」
「そういう案もあるらしい」
「電気の時代ですよ」
「宰相閣下は偉大だな」
「良く出来た妹だよね」
「ソレで済ませるお前も凄いが」
何か?
「結局司馬さんはどこまで考えてるし?」
「さてね。基本的に世界を征服できれば他に無し的な」
「征服して重税を課すの?」
「それは米国だけ」
「中国は?」
「敵じゃないけど策も講じてるのは知ってるでしょ」
「インドと台湾……か」
世界で二ヶ国だけの核保有国。
「別に日本に持たせても良いんですけどね」とはラピス談。
技術は相応にある。
ウランもプルトニウムも確保できる。
作ろうと思えば幾らでも作れるだろう。
意味ないけど。
非核三原則って一種のプロパガンダだよね。
ラピスが居るから良いような物の、核兵器持たずで社会が混迷したらどうする気だったのだろう?
「こうなると司馬さんが死んだ後の世界混乱の方が恐ろしいな」
「いいんじゃない? それもまた人類史のイベントだし」
「中国の皇帝代替わりとはワケが違うぞ」
「似たような物だと思うけど」
あくまで個人レベルで見れば。
御本人はデカフェの紅茶を飲んでいる。
ルリが遊んでいるテレビゲームを論評しながら。
うーん。
プライオリティマックス。
ルリとラピスのためなら死ねる。
夢の出来事が嘘には思えない程度には。
「日本が落ちたら久遠グループをご贔屓に」
「ん。宰相閣下に伝えとく」
「マジ? やっほい!」
「癒着の現場を見た気がするし」
四谷の言うとおり。
ま、実際にイギリスメーカーのゲームのテストプレイをしているくらいだから久遠グループの電子品広告程度は務まるだろう。
そうなると世界覇王と直接パイプを持っている久遠が、在る意味で日本経済の根幹を担うことになるのかな?
巡り巡っての偶然ではあれど、なんていうか世界って良く出来ている。
「ていうか久遠グループはそれでいいの?」
世間体もあるだろう。
企業は大きくなるほど風聞に弱くなる。
ついで法律の粗目も察知されやすくなる。
その点で外面が必須なのは何処も変わらじ。
さすがにアートは別格だけど、あれは極論で例外だ。
あとラピス。
――つまり会社として世論に迎合しなくて良いのか?
そう聞いたんだけど、
「最近の論調は親王国派だしな」
軽やかに述べられた。
そりゃそうだ。
じわじわとボディブローのように世界制覇王国の影が忍び寄る。
――世界支配までもうちょっとかな?
さて、風雲急を告げる。
次回刮目して待て。




