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第114話 孤独の戦士05


 夏が終わり、秋が来る。


 生活サイクルは然程変わらなかった。


 ルリ曰く、


「引き籠りだから季節の実感がない」


 とのこと。


 いいんだけど。


 僕も自宅を離れないで働ける環境を探しているけど中々に。


 今日も今日とて日雇いバイト。


 どこか忘我の境地。


 肉体と精神が繋がっていないというか……あるいはぼんやりまったり仕事をこなすというか……。


 冬になれば暖房の季節。


 電気代もそこそこかかる。


 夏のクーラーも痛かったけど。


 なので働かざるを得ないところ。


 一日働いて給料を貰い、それから喫茶店で一服する。


 ちょっとした贅沢だ。


 オリジナルブレンドのコーヒー。


「あ」


 と懐かしの声。


 四谷だった。


「…………」


 目の端でちらっと見て、コーヒーに戻す。


「店長カプチーノ」


「承りました」


 そして四谷は僕の隣に座った。


 カウンター席だ。


「久しぶりだし」


「だね」


 あまり喜べない。


 ちょっと顔を見られるのは後ろめたい。


 何に起因するかは分かっているけど、それで知識が解決に導くなら、まぁ僕にも苦労は無いわけで。


「あのさ。大丈夫?」


「若いから」


「久遠も心配してる」


「心配ないって言っといて」


「そういうところが煽るし」


「否定はしないけど他に言い様もなくてね」


「ほんとソレ」


 ガクリと四谷。


 そこで肩を落とされても。


 何かツッコむべき?


「学院は楽しい?」


「そこそこね」


「モテるでしょ?」


「人並みには」


「青春とか?」


「あー、部活入ったし」


「へえ」


 それは初耳。


 四谷はカプチーノを飲む。


 僕も倣った。


「水泳部。体柔らかくなる」


「温水プールもあるしね」


「そそ」


 しかし四谷の水着か……。


 そこそこの成長のあとがあるので、ちょっと見てみたいかも。


 できればルリの水着姿の方を見てみたい。


 引き籠りが治ったら、海に連れて行ってあげようジャマイカ。


 その時は四谷と一緒に。


「エッチなこと考えた?」


「まあ。それなりの使い方はあるよね」


「ぐ……」


 恥じらうくらいなら聞かないで欲しかった。


 思春期の男子を舐めるなよ。


 僕にはルリがいるから殊に安全で済んでるけど、普通の男子は四谷を性的な目で見ている。


 これは言われなくても四谷は自覚していた。


 なので僕は何も言わない。


 僕や久遠が例外なのだ。


「ちゃんとやってんの?」


「それはまぁ」


 やってなかったら生きていないわけで。


「久遠に頼ったら?」


「良い関係でいたいので」


「友達甲斐のない……」


「愚痴に付き合ってくれるだけでも助かってるよ」


 時折コメントが来る。


「――大丈夫か?」


「――暇か?」


「――笑えるツイート見たんだが」


 そんな感じ。


 チョイチョイコッチに探りを入れてくる。


 とても感謝すべき事柄なのだろう。


 友情による繋がりは、軽んじられるべきことじゃない。


 妹への愛の次に、だけども。


「なんか火の車を回しているように見えるんだけど」


「気のせいじゃない?」


「顔色そんなんだったっけ?」


「人を魅せるほどものではないね」


「心配してんだけど?」


「ありがとう」


 コーヒーを飲む。


 ちょっと無理しているのは事実だけど、心配させても儲からないしなぁ。


「久遠が言ってたよ」


「拝聴しましょう」


「友達に金貸すのはドブに棄てるような物だ」


 たしかにそう言うけどさ。


「けど司馬になら幾らでも……って」


「友達甲斐のある情念だ」


「借りれば?」


「踏み潰すの前提で借りられるわけないでしょ」


「久遠が良いって言ってるのに?」


「その金は久遠が稼いだの?」


「ぐ……」


「そういうことだから」


 気温の冷える頃合い。


 秋風はちょっとだけ肌寒い。


「四谷は水泳部頑張れば良いと思うよ。なんなら久遠と恋をするのも良いさ。応援してる」


「馬鹿にしてんの!?」


「何故怒る?」


 率直な疑問。


「それは……!」


 それは?


 一体何処か逆鱗だったか。


 少し首を傾げてしまう。


 いや、本気でわかんないんだけど。


 怒られるようなことをしましたか?


 まぁ雰囲気的に謝った方が良いだろうけど、何処に罪悪感を持てば誠実な謝罪が出来るのやら。


 ちょっとわからない。


「まじ有り得ないし!」


 だから何がよ?


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