第106話 慕しき仲にも大義あり03
「にゃむ」
パンと合掌。
僕はカモ蕎麦を手繰る。
ラピスはうどん。
四谷と久遠は定食だ。
学院の食堂。
昼休み。
「恐ろしい展開になってきたな」
久遠が冷や汗を流す。
国際的な議案についてだろう。
属国と臣国の違いは今更語るまでもない。
けれど確かに思うところはある。
気にはしないけど。
――実際どうなんだろうね? 世界覇王って奴は?
けれどそこは久遠。
焦点の先はラピスだ。
「今更だが何者よ?」
「司馬ラピスと申します」
うどんをたぐるラピスでした。
「テロリスト?」
「ですねぇ」
四谷の皮肉も通じない。
元より思考のスケールが違う。
ルリズムの僕に言えた義理でもないけども、ラピスのブラコンも比類に値するほどに大概だ。
それだけで世界を変革しようというのだから、その愛の重さは超銀河団ブラックホール級。
その気になれば全てを圧搾しますぜ……てな感じ。
「結局何がしたいのよ?」
「世界征服」
「…………」
まぁ笑えない。
僕は笑ったけど。
本当の本当に今更。
「で、状況は?」
「一部発展途上国は臣国の表明をポツポツと……の具合ですね」
王国の威力が既に国連と比する物だ。
臣国になれば世論から批判を浴びるが、およそ搾取される側の国々にとっては王国の庇護こそ有り難いだろう。
そりゃドル基軸も大暴落するという物。
ラピスが日本円を使っているので、円は結構価値が高くなっている。
こういうところでもジワジワと世界制覇王国は、世界を侵食したもうぞ。
「で?」
でラピスは終わらせた。
度々警察に不正取引の容疑で引っ張られていくけど、へこたれることをラピスはしない。
心臓だ。
兄としてはちょっと嬉しい。
「日本を臣国に出来れば話が早いんですけど……」
とはいえ米国追従が基本姿勢なのでソレも難しい。
多分ホワイトハウスから「待った」が掛かっているのだろう。
そこはイタ挟みだけど、別段ラピスが付き合う必要も無いわけで。
「やはりネックは米国ですね」
ホケーッとスマホを弄って国際情勢の簡略的俯瞰。
此処に司馬ラピスによる超演算が加わると、エシュロンより厄介な情報収集能力が加味される。
「米国の方もラピスをネックに思ってるだろうし」
「じゃ、戦いますか?」
「綺麗な戦争?」
「もち。人命の尊重は王国の基礎ですので」
「えらいえらい」
ナデナデ。
「にゃー」
愛くるしくラピスは鳴いた。
「どこまで本気なんだ?」
久遠が狼狽える。
「三割ほど」
「三割かよ」
「然程真面目に応対するのも馬鹿らしいので」
ほふ、と、うどんのスープを飲んで吐息。
「ファイヤ」
ポツリと呟いた。
物騒な言葉だ。
神罰兵器こと……システムメギドフレイム。
その行使だ。
「何を?」
四谷が問う。
「国防総省の戦術コンピュータの破壊」
で、済めば良いんだけど、
「後は空母と潜水艦とイージス艦の無力化並びに技術データの焼失」
……そうなるよね。
さすがに技術者を殺すことは出来ないのでデータの方を狙ったとのこと。
文明が退歩するなぁ。
「また死傷者の数が増えるんじゃない?」
「言わせておけば良いんですよ」
そも情報操作では勝てないと割り切っている。
しかも異論反論もあまりしていない。
人民を殺していないとは表明しているも、その否定に対しては、別段「言わせとけば良いんですよ」の態度で臨んでいる。
ようつべで演説する事は出来るけど、
「一番大切なのは誠実さですから」
なんて当人談。
「どの口が」
とツッコみたかったけど、
「僕のため」
と知っているので、無粋はしない。
「世界覇王……か」
「何か命令ですか?」
「臣民を名乗る人に暴動をしないよう忠告を」
「もっと何でも言って良いんですよ? 兄さんは世界で一番偉いんですから」
ニコッと笑うラピス。
萌え萌え。
本当に愛らしい御尊顔よ。
その白い頭を撫でる。
「にゃ~」
嬉しそうにラピスは鳴いた。
「金銭欲もないしなぁ」
「権力とか側室を抱えるとか立派な豪邸を造るとか」
「そういうのを成金趣味っていうの」
「ええ。ですから兄さんを安心して覇王に出来るのです」
これは一本取られた。
信頼というか何というか。
僕の名誉欲の無さを看破しての現状か。
たしかに僕は世界で一番偉くなっても権力を持て余すだけだけど。
そこが負荷になっていないのは……きっとラピスのおかげなんだろう。
きっとラピスは世界征服を単純に「兄さんの住みやすい世界にするため」以上の意味を持っていないはずだ。
「欲のない覇王はありなのかな?」
「兄さんの願いは最大限尊重しますけど……世界中の人間を憎める人もそういないでしょう。まして兄さんの善良性は三千世界で一等賞ですし」
照れる。
道化性は自負有りきだけども。
「だね」
「私は例外ですけど」
「「?」」
四谷と久遠が首を捻った。
まぁそうだよね。




