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第105話 慕しき仲にも大義あり02


 秋の深まる今日この頃。


 段々と風に寒気が混じる。


 僕はとりあえず日常の中でたたずんでいた。


 無言で教師の言を聞き、ノートに記す。


 ラピスはスカーッと寝ていた。


 愛らしい寝顔でキスの悪戯をしたくなるけど……まぁ自重だよね。


 国際的には少し問題が発生している。


 ラピスが臣国の優遇っぷりを示したことで、王国臣民を名乗る人間が一部暴走して……デモや騒動となっている様だ。


 ラピス自身はようつべで、


「世界制覇王国の臣国を募る」


「なお建国に辺りこれまで一人も殺していない」


「臣国には過剰のエネルギー供給を約束する」


 そんな風に述べていた。


 事実上の臣国モデル……台湾はエネルギー産業で他国に数歩先を行っており、その一事だけでも臣国になるメリットは計り知れない。


 ここで少し面白い話になるのは米国と中華が情報操作に関しては互いに協力し合っていることだろう。


「国際テロリスト司馬ラピスの大量虐殺は事実」


「臣国に過剰な暴力支配の実行」


「臣国を募ることで国際的に混乱を招いている」


 ホワイトハウスと共産党が似たような声明を発表した。


 国際的に混乱を招いているのは事実だけど、「冷静に考えてラピスは間接的」も事実。


 別に、「無理に臣国にならなくてもいい」とは伝えてある。


 その上で王国への帰順と反発で人民がぶつかり合っても、「それは人民に責任が帰結する」でファイナルアンサー。


「そんなことをしてほしくて王国を築いたのではないのです」


 と表明。


「単純に選挙で決めれば良いじゃないですか」


 とも。


 ここでまたイギリスが微妙な立場になる。


「臣国ではないが第一種永久機関の敷設は事実」


 シルバーマン財閥への下賜だ。


 が、事実はまま世論によってねじ曲り、「大国が政治の義務を放棄した」反王国派はそう詰って止まない。


 ちなみにIRAは親王国ラピス派の様で。


 いやまぁたしかにね。


 その気になればグレートブリテンもどうにか出来ますけども。


 それにしたってシステムメギドフレイムを勘定に入れて行動を起こすのは辞めて貰いたい。


 其処までフォローは出来ませんぜ……と。


 ラピスの寝顔を見るに、出来たほうが驚くけども。


「期待されても応えられないんですけど」


 がラピスの意見。


 実際その通りだろう。


 別段国家政争には興味ない。


 あくまで架空の統一国家『世界制覇王国』を政治的に認め、臣国になれば優遇するだけで、それ以上ではないのだ。


 その意味で、テロリストとは一線を画し、ラピスの純情が垣間見える。


 純情……まぁ純真か。


 彼女も彼女で思うところがあるようだし。


 ところで教室で発作が起こったらどうすべきなのだろう?


「お兄ちゃん……むにゃ……」


 宰相閣下も大変だ。


 どこか恐ろしい流れになってきた。


 中華は封じた。


 敵対するインドと台湾が核兵器を持っているとなれば、人民解放軍も迂闊には動けない。


 戦端を開けば撃ち込まれる。


 喉元に核兵器を突きつけられてなお戦うならソレは勇気と言うより蛮勇だ。


 米国は軍事力では最強を為すが、「面倒くさいんで」と宰相閣下が無精なおかげで免れているだけだ。


 メギドフレイムに射程はない。


 おそらくだけど、「地球を原子も残さず蒸発させてもまだ手加減しているレベル」だろう。


 マジでグラ〇ゾンに匹敵するレベルの戦力だ。


 その気になれば太陽系程度はどうにでもなる。


 むしろソレですら露骨特異点に於いてはまだしも穏当。


 その意味を知っているのは今のところ僕だけで。


 エネルギー源……先述の通りの露骨特異点は、ある意味でセカンドビッグバンの萌芽なのだ。


 完全な射程無視であるため、空母も潜水艦も航空機も容赦なく滅ぼせる。


 本当に「面倒くさい」から実行していないだけだ。


「暴走するならすれば良い」


 ラピスはそう語った。


 ぶっちゃけた話、米国と中華の暴走を誰より望んでいるのは我らが宰相閣下だ。


 ――「自衛のため」という金看板が欲しいのだろう。


 別段、核が降ろうと何気ない日常には変わりなく、仮想敵国の虚像を造り上げるならカウンターの政略が必要にもなる。


 日本は……まぁ気の毒だけど、米国の意図には逆らえない。


 この場合はホワイトハウスか。


 そこは政治的に理想だ。


 無論ホワイトハウスがそこまで読めないはずもないだろう。


 ミス司馬への懸念表明。


「情報操作に終始するのが逆説的な証左ですね」


 心底つまらなそうにラピスは言うのだった。


 確かにね。


 先に手を出してしまえば、そっちが不利になる。


 そこは米国も中華もラピスも同様だ。


 そんなわけで王国は世論のただ中にある。


 帰順するか。


 反発するか。


 どちらもが正しく、どちらもが正論。


 たしかにラピスは暴力で王国を建造した。


 この場合の暴力はお茶の間クラッキングだ。


 悪いことではあるけど、別に畏れることでも無く。


 実際のところ、核兵器の廃絶はやり過ぎだけど、けれど人民を弑したことはない。


 たしかにラピスは世論の迷走を促した。


 けれども臣国へのふるまいは慈愛に満ちている。


 である故、賛成も反対も同じだけ説得力を持つ。


「めんどうくさいですね」


 とは当人談。


 嵐の中心が何処かも自覚はないようだ。


 というより自覚自認はしても、重きを置いていないが正しい。


 とりあえず眠るのも飽きたらしい。


 授業の合間にスマホを弄り、


「ほうほう」


 と興味深げにネットの意見を見る。


 役に立つか立たないかはこの際問題では無い。


 そんなことはどうでもいいのだ。


 単純にラピスが願っているのは僕の幸せ。


「兄さんを世界で一番幸せにする」


 贖罪……と呼べるのだろうか。


 けれど楽しんでいるなら止める理由も無い。


 別段僕も困っているわけじゃ無いしね。


 単に暇潰しの一環だ。


 それで世論をかき乱すんだから兄妹揃ってはた迷惑な事よ。


「ま、いいか」


 黒板の文字を版書する。


 勉強が学生の本分だ。


 であれば今は世論を気にせず勉強に没頭すべきだろう。


 現実から目を逸らす意味でも。


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