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第104話 慕しき仲にも大義あり01


「う……げぇ……」


 早朝。


 場所は我が家。


 その寝室。


 ラピスが吐瀉した。


 定期的な罪悪感の発露だ。


 フラッシュバックするのは僕の死。






 …………本当に……ただそれだけ。



「兄さん……」


「ここにいるよ」


 パジャマは吐瀉物で汚されたけど、その程度は問題もない。


 洗えば済む。


 そんなことよりラピスが心配だ。


「大丈夫だよルリ」


 あやす時。


 慰める時。


 僕はラピスをルリと呼ぶ。


「殺して……ごめんなさい」


「生きてる」


「でも未来では……」


「うん」


 頷いて、抱きしめる。


 吐瀉物にまみれているけど、この際仕方ない。


「ありがとね」


 僕は感謝した。


「え……?」


 困惑の声。


 おそらく大きく瞳が開いているだろう。


 胸元に抱きしめているので、予想だ。


 あくまで。


 きっとそんな赤い瞳が……くりぬいて保存したいくらい、綺麗に輝いているのだろう。


 シルク相応の髪を撫でてあやす。


「僕の死を悲しんでくれる妹で良かった」


「殺したんですよ……?」


「その後悔が僕を幸せにした」


「し……あ……わ……せ……」


「ルリって言う可愛い妹が現われた」


「…………」


「僕のことが大好きで……死んだことが許せなくて……」


「…………」


「だからやり直すために偉人になった」


「…………」


「僕とルリは確かに繋がってる」


「…………」


「ルリの自責と後悔が無ければ今の状況は成立していない」


 だから。


「だから」


 頭を優しく撫でる。


 精一杯の慈愛を持って。


 それ以上が無いほどに優しく。


 曖昧を不安にさせる要素は全て廃絶して、僕は述べた。


「ありがとう……って僕は言いたい」


「殺した……相手に……」


「ルリがそうやって自分を責め続けるからこそ……今の僕はこうして幸せでいられるんだよ? きっと全ては繋がっていて……だからルリにも優しい世界であれば良い」


「私は……ただやり直したかっただけ……」


「だから好き」


「――っ」


「愛しいルリ」


 囁く。


 ラピスの耳元で。


「君のその偉業として失墜の悲しみが背景にあるのなら……逆説的に僕への無謬の愛情の証明だよ。ソレは素直に敬服できるモノだ。シスコンの僕にしてみれば」


「私は……!」


「その苛烈さ。灼熱。多量にして飽和の愛」


 とてもエントロピーとして成り立っていない、宇宙の御業。


 時間の遡行という愛有りきで為してしまう奇蹟。


「……っ」


「単に僕を使い潰すだけなら未練なんかないはず」


 やり直そうとは思わない。


 過去に戻ろうとは思わない。


 生き返らせようとは思わない。


 世界で一番幸せにとは思わない。


 だから……、


「だからその全てが愛おしい」


 そんな結論にも成る。


 ――愛しいルリ。


 ――君はどんな地獄を見たんだい?


 それが言えないのなら、僕は幾らでも道化の仮面を被ろう。


 何時でも笑って、笑いを取って、無様に人を安心させる。


 僕に出来る事がその程度なら、その程度をやりきろう。


「ルリ」


「…………兄さん」


「ありがとう」


「う……あう……」


 こ~ゆ~ところはロリルリと変わらないらしい。


 僕に弱いと言いますか。


 いや、愛らしいので十分報われてるけどね。


「お茶でも淹れよっか。着替えの後に」


「汚してごめんなさい」


「いいの」


 鼻先をプニッと押す。


 ウィンク。


「今更遠慮する仲でもないでしょ?」


「…………あう」


 大人しいラピスも遺産級だ。


 そんなわけで着替えて、茶を淹れて、布団を洗って、朝食。


「むー」


 もむもむとラピスは朝食を食べていた。


 食後の茶を飲んで、それから着替え。


 珍しくルリがこっちに話しかける。


 いや珍しくはないけど、自発的に述べた言葉が新鮮だ。


「お兄ちゃん……?」


「何でがしょ?」


「お姉ちゃんは……大丈夫……?」


「きっとね」


 自分を許すのは困難を伴う物だ。


 けど大切な物に気付けば……きっと回り道も尊い思い出に為る。


 そのためには僕の助力も必要だろう。


 であれば手加減の必要も無い。


 この身を焼いても、ラピスの罪悪感を燃やし尽くしてみせる。


 ルリが問うたのはそのことだろう。


「僕はお兄ちゃんだからね」


 ヒールの方が性には合ってるんだけど。


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