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第103話 文化祭デート06


 文化祭が終わると日が暮れた。


 ベタもベタでキャンプファイヤー。


 僕は校庭の篝火を見ながら校舎と校庭の間のアスファルトに座っていた。


 階段になっている。


「楽しめましたか?」


 隣にはラピス。


 最後はさすがにこうなるか。


「色々とね」


 僕は率直に答える。


「ルリズムも揺らぎますか?」


「どうだろね」


 そこはあまり自信が無い。


 良い意味で。


「ラピスも僕が好きなんだよね」


「ええ」


「いい子いい子」


 頭を撫でる。


 けれどラピスの心は晴れなかった。


 心の曇天模様は利休ねずの雨が降り、雲の厚さたるや大変な重量を想定してしかるべき。


 ――何か?


「けど……そんな資格もありませんので……」


「僕が死んだから?」


「私が殺しました」


「それは初耳だな」


「言ったら……今の兄さんに嫌われると思っていましたから」


 それは確かに不安にもなるね。


 立場が逆なら僕だって言いよどむ。


 そもそもルリが死んだからって、僕に時間遡行が出来ないのは厳然たる事実なんだけど。


 その場合はスカイツリーからダイブしかねない。


「今は言っていいの?」


「どちらにせよ言わねばならないことではあります」


 言い出すタイミングが掴めなかっただけ、ね。


「ま、殺されたって言われても今生きてる僕には実感がないんだけど」


「ええ、その贖罪のために私はやり直しを要求しましたから」


「御苦労だね」


「兄さんには……その……」


「……………………」


 黙って聞く。


 多分ここで茶化すとラピスは喋れない。


 道化……あるるかんであることは前提条件だけど、ま、たまにはシリアスも良いか。


 別に損するわけでも無いしね。


「兄さんには……ルリズムを止めて貰いたいんです……」


 血を吐くような顔でラピスはそう言った。


 夜目だからもしかしたら勘違いかもしれないけど。


 けれど……少し意外だった。


「ルリズムを……止める……?」


 僕の魂に根ざす部分だ。


 ちょっと反発心。


 理性が押さえ込んだけど。


「ラピスだってルリでしょ?」


「ええ、時間異相……ではありますれど」


「何ゆえ?」


 なんかアートの口調が移った。


「ルリは兄さんを不幸にするだけです」


「ルリが居るから毎日が楽しいんだけど?」


「何故そこまで入れ込むんですか?」


「可愛いから」


 コンマ単位の即答。


「ビッチでも……アートでもなく……?」


「家族は愛し合う物でしょ?」


 僕にとってのルリがそうであるように。


 ラピスにとっての僕も。


「兄さんのソレは呪いです」


 母との約束。






 ――「大切な物は魂を賭けて守り通せ」





 あらゆる物を失って……残ったのは二人には広い家と……僕とルリ。


 ならルリを守り抜く。


 置き去りにされた僕のレゾンデートル。


 そうなるに不自然は無かった。


 しょうがない。


 大切な家族なんだから。


「使い潰されますよ?」


 ラピスは言った。


「ルリは……私は……兄さんに甘えて……甘えて……甘えきって……兄さんが死ぬまで奴隷にしますよ……?」


「したの?」


「ええ」


 それは此処からの未来には無い可能性。


 ラピスにとっては過去か。


「いいんじゃない?」


 我ながら気を違えているかもしれなかった。


 けれど愛妹の我が儘なら幾らでも聞いてあげたい。


 そのためなら学院を止めて働いても良い。


 ルリが心配することは何もない。


 全てのお膳立てを、僕はルリにしてあげたい。


「僕がルリのためになるなら命なんて惜しくないよ」


「だからソレが呪いなんです……っ」


 ぼんやりと光る赤い目。


「兄さんは狂ってます」


「否定はしない」


「ルリさえ見捨てれば自分のために人生を謳歌できるんですよ?」


「そうかもね」


「私がルリを殺しましょうか?」


「タイムパラドックスが起きるんじゃないの?」


 ラピスが未来のルリなら過去の消去は影響するはずだ。


「司馬ルリが居なくなれば万々歳ですよね?」


「僕にとっては自殺物だけど」


「嫌ってくださいよ」


「無理」


「疎んじてくださいよ」


「却下」


「持て余してくださいよ」


「不可」


「どれだけ私のことが好きなんですか!」


「大好き」


 ごめんなさい。


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