第101話 文化祭デート04
「はーい」
アートと合流した。
休憩時間だ。
四谷がシフトでまた元の鞘に収まる。
「とりあえずお茶にしない?」
愛すべきクラスを指差した。
メイド喫茶。
「陛下の骨髄に」
ご随意に、ね。
いや、多分、分かってるんだろうけども。
メイドさんのご奉仕……ちょっと萌え。
これは偉大な一歩だ。
けどルリにメイド服の方が更に萌え。
ああ、今度幼女用のメイド服を探してみよう。
滾ってくる。
「陛下~。どしたです?」
は。
ちょっとトリップしていた。
閑話休題。
「陛下は止めて」
「なにゆえ~?」
「デートなんだから対等であるべき」
「難題な御機嫌」
「互いの理解を深めるのがデートでしょ?」
「では何と星君?」
「軽木でいいよ。僕もアートって呼んでるし」
「軽木……様?」
「呼び捨て」
「おー……」
「財閥令嬢をやめんさい。ここにいるのは男子と女子。一人の女の子として付き合ってもらうから」
「縄文ドキドキですな~」
とりあえず紅茶を頼んでクラスでまったり。
アートはメイド服だった。
銀色の流れる髪が照明を反射して輝く。
碧眼はエメラルドの如し。
メイドカチューシャが愛らしさに花を添えている。
「似合ってるね」
「そですか?」
「お持ち帰りしたいくらい」
「幾らデモ!」
「アートとしてはラピスをお持ち帰りしたいんじゃないの?」
「それは財閥ん都合なた」
「でしょうね」
インタフェース。
ソレが何処までを指すのかは、「ラピスのみぞ知るところ」だろうけど。
「アートは疲れないの?」
「何を対象で?」
「気の向けようがない僕の機嫌とって」
「軽木はワンダフルですが?」
「ラピスのオマケでしょ?」
「ソレだけですむでしょか?」
当人はいたって大真面目。
そういうところは嫌いじゃない。
にしても僕の価値って何だろね?
ちょっと考えてしまう。
思春期ならではの……アイデンティティの不透明さは中二病の第一段階とでも申せようか。
「乙女的にはむず痒いだす」
紅茶を飲む。
「どんなところが」
「一般女子としか見られていないところが」
「一般女子でしょ?」
「軽木はそげな言いますんけど」
「他の男はそうじゃない……」
と。
財閥令嬢も大変のようだ。
こっちもラピスがいなければ萎縮していただろう。
そもそも関わってもいなかったけども。
その意味でラピスが僕とアートを引き合わせたわけだ。
ルリズムとしては、あまり陰謀に愛妹を巻き込みたくないんだけど。
「アートはソレで良いの?」
「ま、下卑た視線には慣れ孟子」
「楽しい? ソレ?」
「そういう風に育てられましたゆえ~」
「帝王学か」
財閥なら有り得るね。
「じゃ、僕に惚れなよ」
「そんけー」
「僕だったら気遣う必要もないから」
「乙女心にナイフが刺さります」
「重畳だね」
「軽木はイケメンだ」
「久遠の方がそんな気がするんだけど」
「あちは怯えて申す」
そりゃそうだ。
久遠グループなんて、財閥を敵に回せば粉砕される。
いや、国内ならまだ大丈夫だけど、ワールドワイドとしてみたら何処か頼りないのも事実で。
さすがに保有する資金の規模が違う。
資金は経済にとってのスタミナで、在る意味で膨大であれば無茶をしても息継ぎ無しに押し通す力を持つ。
ニュースだってスポンサーの意向を受けて情報を発信する。
であれば資金はそのままメディアに直結するのだ。
紅茶を一口。
「惚れてインダストリー?」
「嫌になったら嫌えばいいでしょ?」
「むぅ」
思案顔になるアートでした。
メイド服がとても可愛い。
しかも地毛の銀髪とくる。
「軽木は僕を胴元ってるの?」
「どう思ってるって言われてもな」
紅茶を飲む。
「綺麗な女の子」
「綺麗どすえ?」
「周りから言われない?」
「よく言われ孟子」
「でしょ」
「けど……」
――?
「そんな純粋に言われたのは初めてです」
おや、珍しく真っ当な言葉遣い。
それほど深く考察できるのは、嬉しいやら貴いやら。
何にせよアートにもアートなりの贅沢な悩みはあるみたいで。
「嘘偽りなく可愛いんだけど」
「あう……」
照れる銀髪メイドさん。
カチューシャが頭部ごとグワンと揺れた。
茹で蛸のように真っ赤に赤面。
――ご馳走様です。




