一章「アンナ・ロマン」 4
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シン・ライトニングのその生い立ちを追えば、それほど長いものでもない。長寿のエルフ族と比べ、人一人の歴史など小指の爪程の短さである。
戦時下の東の大陸にて生れ落ち、親族を亡くして露頭に彷徨っていたところを丁度、魔法の実戦投入のために足を運んでいた魔女イスタルに拾われた。その際に魔法の才を見出され、弟子として付くこと十数年、一切の文句を吐くことなく、むしろそれが幸せだと言わんばかりに、小間使いをしてきた。
東から西の大陸へ移り、とある国の都から少し離れたイスタルの屋敷にて生活を始めた。ずぼらであったイスタルの身の回りの世話をして、暇があれば魔法を習う、そんな日々が続く。
二十の頃には、修行だと言われて森を離れて街へ街へと連れまわされて、イスタルの下、魔法を広める手伝いに励んだ。
そのイスタルが亡くなったのは、シンが二十三になった年の暮れのことである。りんごを喉に詰まらせた。別段、年老いていたわけではないのだが、魔法の研究の最中、小ぶりの林檎を口に放り込んだ末の結果であった。
あいつらしい最期ではないか、とルーギスは涙で目を腫らしたシンに告げた。ルーギスは、イスタルと年に一度は必ず、酒を酌み交わすほどの仲であった。小さな弟子であったシンが成長していく様子を間近で見ていた数少ない人物の一人でもある。
シンはイスタルの残した数多くの魔法の書と、外法を用いて、冥界を下る術を見つけ出した。人手を借りるため、都で行われていた学会にて公表するものの認められず、それどころか異端者として追放されることとなる。
都では、魔女の弟子は禁忌の死霊術者、他人の命で師を蘇えらせようとしている狂信者、といったまことしやかな噂が流れ始め、あっという間に国中へと広がっていった。イスタルの横暴で高慢ちきな性格が災いし、一部の人間から疎んじられていたため、弟子であるシンの印象も言わずもがな。
魔法を教えていたある街では石を投げつけられ、以来、森の中へ引きこもってしまう。