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「ねえ、桜庭さん。」
透き通った高めの、声。鈴のような声とは、まさに、このような声を指すのだろう。目の前の少女が、私ににっこり微笑みかける。クラスの男子の視線を集める、その少女は、少し顔を赤らめ、小首をかしげている。
「何か用ですか?椿さん。」
視線に、そろそろ嫌気がしてきたし、あと少し残っている、本を読んでしまいたい。
「少し、いいかな?お話ししたいんだけれど。」
ここでは…きっと駄目なんだろう。話の内容に既に見当がついてしまっているし。きっと、また、あの話だろう。
私はそっと鞄から栞を取り出して、本に挟み、席を立ち、彼女の話を聞くために、幾多の視線を浴びながら、屋上へと向かったのだった。
屋上は、まだ、5月ではあるが、お世辞にも春の温かな天気とは言えない。下旬であるし、梅雨の少し湿気混じりの肌をかすめる風が、爽やかという言葉からはかけ離れている。そんなことを考えていると、彼女がいっそう―不気味な程に満面の笑みを浮かべた。
「杠葉梓。彼と、幼なじみなんだよね?」
ああ、やっぱり…。そう思わざるをえなかった。