第一話 シルバーマザードラゴン
わらのいい匂いがする。
私はそっと目を開けた。
視界にはわらと岩。
寝返りをうつ。
反対側も似たような景色だ。
私はどっちだ?
そんな疑問。
手を見る。
ひどく見慣れたなれない小さな手。
ん?どっちだろう。
見慣れたような気がするしそうでも無い気がする。
「目が覚めましたか?」
ひどく懐かしい初めて聞いた優しい声。
私がそちらに目を向けるとドラゴンがいた。
ひっと小さな悲鳴をあげる。
ドラゴン!?
なんでドラゴンがいるの?
あわてる私にドラゴンは笑う。
「全く、寝ぼけているのですか?母の顔を見て怯えるなんて。」
その様子を見て
「ごめんなさい。お母様。」
私は自然とそうこぼしていた。
そうだ。この人?が私の母。シルバーマザードラゴンだ。
なんであたしは、私は?あたし、私あたし私。
唐突に吐き気が襲って来る。
私は口元を抑えて呻いた。
「大丈夫ですか?」
お母様はあたしに…ドラゴンは私に呪文をかけてくれた。
ほんの少しだけ気分が良くなる。
「まだ病み上がりなのですから。おやすみなさい。」
そう気にかけてくれる声は間違いなく優しいお母さんだった。
私は再度眠りにつく。
二回目目覚めたときは前よりクリアに目覚めた。
わらの匂いのするあたしのベッド。
あたしはそこから出ると壁伝いに外に出た。
洞窟を出ると目の前には森が広がっている。
フィオナの森。
そう言われるフィオナ村近くにある大きな森でフィオナ村とあたしの住む洞窟ではこの森で挟まれている。
森の中には魔物もいるし道がきちんとある訳でもないので歩けば四時間はかかる。
もちろんお母様にかかればほんの五分で村に着くけどね。
と、地面に大きな影ができる。
私が天を仰ぐとお母様はちょうど戻ってきたところだった。
「ミラ。具合はいかがですか?」
「大丈夫だよ。お母様。」
あたしの言葉にほっとしたのか。
お母様は胸をなでおろした。
「良かった。あなたが崖から落ちたと知った時母は生きた心地がしませんでした。」
「ごめんなさい。」
私がそういうと
「でも、いいのです。今こうして生きてるのですから。」
彼女の言葉に私は涙がこぼれた。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「もう泣き虫ですね。」
「ごめんなさい。」
私はただただ謝るしかできなかった。
「しかし、なぜあの崖を登ったのですか?」
ひとしきり私が泣き終わったあと彼女はそう切り出してきた。
「村に行ったら村のみんなが今日はお母さんにお花を渡す日と言ったから。」
私はまだ少し混濁している記憶から質問の答えを探し出す。
「まあ、あなたは。また勝手にフィオナの森に入ったのですね。」
「ごめんなさい。」
「仕方の無い子ね。その無邪気さがあなたのいいところ…なんでしょうけど。」
彼女はため息をつく。
娘が危ない目にあっても未だに森に入るのがやはり気に入らないのだろう。
今回は死にかけてもいる。
それは当然の感情と言えた。
「とにかくしばらくは洞窟から出ないこといいわね?」
彼女なりの妥協案なのだろう。
私は黙ってうなづく。
「今日はだいぶ聞き分けいいわね。」
彼女は不思議に首をかしげた。
がすぐに思い直したのか。
「では、私はまた出かけます。大人しくしてるのですよ?」
そう言って羽を羽ばたかせるとまた上空に消えていった。
私はふらふらと洞窟に戻りわらのベッドでまた眠りについた。
とにかく今は休まないと…。
ミラのために。