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もうどこにもいかない

作者: 谷水 映夫

わたし、チサト。しょうがく6ねんせい。うちのおかあさんがね。うつびょうだったけど、チワワをかいはじめてげんきをとりもどしたみたいなんだ。チワワのなまえは「チョコ」。ちょこちょこあるいてるすがたがかわいらしくてつけたなまえなんだ。でも、ひとつだけおかしなところがあるんだ。

それは、えいきゅうてきにしたが少しだけでていることなんだ。

でも、それにもましてお母さんのことが大好きなんだ。

ぼくは、チョコ。ぼくはお母ちゃんにはじめてだっこしてもらったんだ。だっこって天国に行くみたいだったよ。

きょうはかってにこうえんにいってだれかれかまわずペロペロペロペロ。手やら顔やら をなめまわしています。

だって、そのとき、だっこしてくれるとおもったんだ。

いいこともわるいこともなにもわからないぼくが、チサトの手をかみついたんだ。すると、チサトはすかさずぼくの口と鼻をかたてでぎゅっとふさいでわからせようとしたんだ。 それがぎゃくこうかだっていうのに。 そのうちにチサトはおさえていることもわすれてお母ちゃんとはなしこんでいます。 「あ っ!」とお母ちゃん。チサトもびっくりしてようやく手をはなしたよ。

とても、とーてもくるしかったよ。そんなしんだかとおもえたそのときにぼくはじぶん の命はこのひとたちにあずけてはいけないな、とおもったんだ。

それから、ぼくは「ふりょう犬」になったんだ。

いつも、しらないあいだに家をとびだして、ひとさまの食事にでるサンマやら肉やらを かっさらってきては家のにわで食べるのです。 わたしはチサト。こんなことになったのもわたしのせきにんだといつもおもっている。 なんどだってゆるしをチョコにこうていたけどもう、わたしがたたいているのはドアでは なくかべになっていたんだ。

チョコはなにをしたってキレてウーウーうなるばかり。できのわるい犬だ!といったってしかたない。わたしがそうさせてしまったんだから。そのくりかえし。 もう、わたしがチョコになにかをしてあげようなんておもわない。いや、おもえなくな

- 2

ってる。

いつものようにともだちのおうちからかえってくるみちすじ。すきとおる空の青をおわりにするのはわたしじゃなくてゆうやみでした。

通りのゲームセンターにはいつものようにしょうがっこうのほどういんの人がこどもたちをつかまえています。そこにはこうかいなんてそんざいしていなかった。

「ただいま~」

あっ、チョコただいま! チョコはみくだしながらみつめているのがわかってはらがたつけど犬にはかなわないと いつもわたしはきずつくばかりでいました。日にちがたつといいかげんスルーするように なりました。はらをたてるところをたてないとだれかがほっとしたみたいにす~っといやしがおとずれるのです。

お母さんはびょういんにチョコをつれていきました。ていきけんしんです。せんせいはいいました。この子は「しんぞうびょう」です。もって3かげつのいのちです。

お母さんのちのけがサーッとひいていくのがわかりました。きゅうにだまりこんで目がうつろになってしまいました。

「お母さん!げんきだしてよ!」と、わたしのことばえらびにはじぶんでぜつぼうしました。でもこれいじょうのことはふくざつすぎていえないのです。映画のせかいではきれ いなことばをはけるのだろうけど。

それからというもの、チョコがたのしいとおもえるようなことをぞんぶんにさせてあげました(とはいっても、にんげんがたのしいとおもうことを)。

ある日、トヨタのアクアでドライブにいったときのこと、とあるドライブインでやがいにある石のテーブルのうえにチョコをのせたときのこと、そのときのことをおぼえている。 「おみずのみますか~?毛なみをそろえましょねー」とお母さん。「よ~しよし!」ぶき ようにかわいがるお父さん。 すべての愛をしぼりだしながらひきだしていっしんにそそいでいるお母さんとお父さ ん。チョコのまえにつぎからつぎへすきがないほどのよれよれの愛。それは、わたしから 見たらなみだがでてくるほどでした。

なにもかもがたのしいことがじかんをむさぼり、あっというまに3かげつがすぎました。

- 3

お母さんにはとくに、楽しかったことがかえってかなしさをうみだすのです。

びょういんのせんせいは「こんやがとうげでしょう」といいました。

お母さんは「さいごのおみずよ~・・・・・」といって、おわんに水をいれてちからないチョコの口もとにおきました。

みずをなめる音がどこかものさびしくきこえます。 そのおわんのすいめんにはだいすきなお母さんがうつっています。 あやうくゆれながら。

お母さんは、携帯電話のカメラをとろうとチョコのぜんしんをとらえました。

パシャリ

そういえば、チョコ、舌だしてない!

写真のなかでのチョコは、もう、どこにもいかないよ。といっているようでした。

                                     おわり

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