前作のキャラと魔王が出張ってくるんですけど~とある電波少女の失敗 編~
「お嬢様は、一体どこに向かおうとしているのか~とある侍女の失敗 編~」のある意味続編です。
私ことグレタ・ウィンスロップ公爵令嬢は、前世の記憶があるの。
ここは、前世でしていた乙女ゲーム『一番、笑顔が多い場所。届け、この思い』の世界なの。
その乙女ゲームで、なんと私は『悪役令嬢』。
信じらんない、なんで『ヒロイン』にしてくれなかったの!?
ふーんだ、絶対に悪役回避してみせるんだからっ。
悪役令嬢だと知った私は、いろんなことをちょー頑張ったの。
乙女ゲームで出てきた攻略対象たちの『心の闇』を解消するお手伝いをしてあげたわ。
そしたらなんと、攻略対象たちから愛の告白をしてくれるようになったの。
でも、大丈夫♪ 私、みーんなの愛を受け止めてあげるからね♪
『逆ハーレム』ルートがあるし、学園に入れば私の攻略対象たちと私の愛は完璧になるわ。
待ってなさい!ヒロイン。 愛され令嬢の私が、アンタの悪意から私の攻略対象たちを守ってみせるんだから。
ここで忘れちゃいけない乙女ゲーム『一番、笑顔が多い場所。届け、この思い』をちょーっと説明するね。
前作『ずっと守ってあげたい。貴方を幸せにしたいから』と同じ時間軸。
前作はただの恋愛ゲームだったけど、今作は恋愛+ファンタジーバトル。
魔王が出現すれば、その時点でGAME OVER。
魔王なんてほんと出番がなくてレアキャラ扱いだったの。
まぁ、ヒロインさえ抑えれば私の愛され生活は大丈夫ね♪
学園に入ると、私の攻略対象たちが次々と愛の告白や愛の囁き、プレゼントをくれるの。
かっこいい攻略対象たちから愛されるなんて、ふふっ♪ 私って幸せ者ね。
でもある日、前作のヒロインと悪役令嬢、そして魔王が私の真実の愛のための学園に転入してきたの。
魔王なんて、侍女の格好をしてるのよ。
そして、悪役令嬢のことを『お嬢様』なんて呼んでるし。
なんで! なんで! なんで!
前作って言っても、今作とは話はつながってないのよ。
制作したゲーム会社と世界観が同じなだけなのよ。
前作のキャラなんて、今作には全く出てこなかったのよ。
どうして、なんで、こんなことになってるのよ!?
私、聞いていないわよ。
今作ヒロインが、「なんか私、ストーカーされてるんですけど―――!」と青い顔をしながら泣き叫んで廊下を全速力で走っているわ。
そしたら、前作ヒロインのナタリアが「彼女が新たな被害者ね。今すぐ助けてあげるわ」と言って、ジェイミー様を鉄パイプで殴り倒したの。
前作悪役令嬢アビゲイルは「ナタリア様、力の加減が甘いですわ」と言って、ハリセンでライアン様の意識を刈り取ったの。
魔王は、「お嬢様とナタリア様の邪魔するなど言語道断。この不肖メアリーが、片付けて差し上げます」と不敵に笑って、アンドリュー王子様とトム様とニコラス様を蹴り倒した上で、気絶させていたの。
「メアリー、王子までしたら不敬罪に問われない?」
前作悪役令嬢アビゲイルが心配そうに言うと、
「大丈夫でございます。問題ございません」
あぁー、魔王だから問題ないのかと思った瞬間、『私が魔王とバラしたら分かっていますね?』とものすごーい殺気を向けて言外に言ってきたの。
殺されるかと思ったわ。
魔王というレアキャラなんだから、大人しくしてなさいよ!
「「さすが、メアリーね」」
なんで、前作ヒロインのナタリアと前作悪役令嬢アビゲイルはそんなカンタンに魔王を受け入れてるのかなー?
それにしても、今作ヒロインがうざいわ。
私の攻略対象たちの行く先々に現れて、接触しようとするの。
そんなことしてもムダなんだから。
心優しい私が、教えてあげないといけないの?
ううん、そんな必要なんてない。
あぁ、あの鬱陶しい女をなんとかしなくちゃ。
私の愛され生活の邪魔なんて、させないんだからっ。
そしたら、ある日。
私の攻略対象たちの一人ライアン様と仲良くするために接触した今作ヒロインは、
「私は、もう泣き寝入りなんてしない! 攻撃あるのみ。一撃命奪キィーック!」
そう叫びながら、無防備なライアン様の急所に力の限り蹴りを入れたの。
なんてことをしているのっ!?
あまりの痛さに廊下に横になってくの字になっているライアン様を無視して今作ヒロインは、
「よっしゃー!勝ったどー!」
と、拳を天に突き上げ勝利宣言をしたの。
私は、急いでライアン様に駆け寄り介抱したの。
この時、私はライアン様のことしか見ていなくて、気付かなかったの。
もし、聞いていれば結果は変わったはずだわ。
悪役令嬢アビゲイルが、私が転生 悪役令嬢であることに気付いてたなんて...
これを機に、今作ヒロインの横暴は増すばかりなの。
信じらんないことに、今作ヒロインは私の攻略対象たちと接触するごとに急所を思い切り蹴り上げだしたの。
大切な場所を手で隠しながら逃げ惑う私の攻略対象たちを追いかけ回して、確実に潰して行こうとしているわ。
そこに、仁王立ちする魔王。
そして、魔王は私の攻略対象たちの大切な場所をを問答無用で全力で蹴り上げて締め上げた。
「ミシェル様、甘いです。彼らは、『性犯罪者』予備軍。慈悲など必要ありません。今までの恐怖を思い出して下さいませ」
「...お師匠様。そうね。そうだったわ...」
えぇっ!? いつの間に、ヒロインは魔王をお師匠様って呼ぶようになったの!?
「メアリー、ミシェル様にいきなり私と同じレベルを求めるのはダメですわ」
「申し訳ありません。お嬢様」
「アビゲイル様。でも...」
「ミシェル様。メアリーの言う通り、彼らは性犯罪者予備軍ですわ。一歩づつでもよろしいから、彼らを容赦なく潰して行きましょうね」
慈愛に満ちた表情で、物騒なことを前作悪役令嬢アビゲイルはヒロインに言ったの。
いやいやいや、それっておかしいでしょ!
「私、頑張る!」
なに、本気にしてんの!? 今作ヒロイン。
「私も、全力で協力しますね」
うんうんと頷きながら協力すると言った前作ヒロインのナタリア。
それを見て感動する魔王。
感動する要素ってないよね? ないよねっ!?
そして、私の愛され生活の序曲に必要なイベントである卒業式。
「ミシェル嬢、貴様は我々の愛しのグレタ・ウィンスロップ公爵令嬢をイジメた。よって、貴様をこの国から追放する!」
私の攻略対象たちの一人のアンドリュー王子様が、私を守りながらものすごーくカッコよく言ったの。
最後に勝つのは、やっぱり愛され令嬢の私ね♪
ヒロインなんて、目じゃないわ♪
攻略対象たちが、私を守るために口々にヒロインを非難しだしたの。
ふふっ♪ これで、ヒロインに勝ったも同然♪
そこに、人混みを掻き分けて登場するこの物語に関係ない前作ヒロインのナタリアと前作悪役令嬢アビゲイルと魔王。
なんで、ここに魔王がっ!?
ここは、悪役ヒロインの断罪の場所でしょ!
もうっ、なんで私の邪魔をするのよ!
私がいろんな感情に渦巻いていると、王様と王妃様とこの場にいる人たちが、魔王に対して跪いたの。
なんでっ!?
「魔王様。この度は、愚息+αが失態をお見せしてしまって、誠に申し訳ございません」
と王様が、魔王に変なことを言ったの。
いやいやいや、王様。
ここで、魔王に謝っちゃダメでしょ!
私の攻略対象たちは、悪いことなんて何もしてないわ。
悪いことなら、そこの女がしているでしょ。
私の攻略対象たちに対して、色目を使いまくったあげくに暴力を振るってるのよ。
酷いと思わない!? なんで、こんな横暴なことが許されるのよ。
「何を言ってるのよ、王様。ぜーんぶ、この女たちが悪いんだから謝る必要なんてないわ!」
ここは、心優しく美しい愛され令嬢の私が教えてあげるんだから、王様だってきっと分かるはず♪
「そうです。父上! 私の愛するグレタの言う通り、今すぐにでも目を覚まして下さい!」
凜々しくカッコよく言うアンドリュー王子様。
うん、これなら王様もさらなるダメ押しに気付くわね♪
前作ヒロインのナタリア、前作悪役令嬢アビゲイル、ヒロイン、そして大本命の魔王の退場~♪ 退場~♪
さぁ、王様。 パパッと、あの女たちに引導を渡しちゃいなさ~い♪
ここは、悪役令嬢のためにある世界だって、教えてあげてもいいのよ?
それくらいで、許してあ・げ・る♪
そんな心優しい私の優しい思いもむなしく通じなかったの。 ウソでしょっ!?
「国王陛下...」
なぜか、魔王は王様になんともいえない表情で問いかけたの。
ひょっとして、魔王は自分の間違いに気付いたの!?
う~ん、それなら許してあげないわけではないけど。
「魔王様...その、お気持ちは分かります。本当に、本当に申し訳ございません。まさか、愚息+αが学園で被害者を作り出してしまうなど」
「お気持ちは察します。まさか、そこにこの国で最も政治影響力のある公爵令嬢が混じっているとは...」
「メアリー、国王陛下、このままでは話は進みませんわ。 国王陛下、私には国に帰った時に報告の義務がございますの。 誠に申し訳ありませんが、被害者を出してしまった者たちへの我が国にも納得いく処罰を彼らに出して下さいませ」
前作悪役令嬢アビゲイルの言葉に我に返りハッとする王様と魔王。
「そうだな。この世界で、被害者を出すなど、あってはいけないことだ。まさか、神がこの世界を見捨てた原因の『乙女ゲーム事件』をこの代で起こすとは」
「我が国でも起こってしまったので、我が国の国王陛下に頼んでこの国に留学したのは正解でしたわね。もしかしたらとは思いましたもの。嫌な予感とは当たりますものね」
「真実の聖女様、そのようなことが。貴殿が率先して、乙女ゲーム事件を解決したという名声はこの国まで届いています。 真実の聖女様、奴らへの厳罰はどのようなものが?」
真実の聖女ってなによ!?
「メアリーが提案して、ナタリア様が決めましたの。メアリー、提案の内容を」
「はい、分かりました。お嬢様。
その1.色狂いとご評判の女王がいるブルーベリー共和国に引き取って頂く。 その2.男色家として有名な国王がいるストロベリー合衆国に引き取って頂く。 その3.女装男子にしか興味を示さない第一王子が生息するアプリコット帝国に引き取って頂く。 その4.炭鉱での労働力として、マーマレード公国に無償で提供する。以上です」
「その中で、どれを選んだのですか?」
「その4でございますね」
「うむ。一番の安全策ではあるな...。よし、決めた。愚息+α、被害者を作り出した罪により、貴様らを廃嫡とし、マーマレード公国へと行ってもらう。そして、...グレタ嬢はレッドカラント大国の綿畑に行け!」
なんで私が、綿畑になんて行かないといけないのよ!
これじゃ、奴隷と一緒じゃない!
これは、悪逆非道なる魔王の陰謀ね。
よし、王様に真実を言ってあげよう。
いつでも、真実は一つだものね♪
「王様、魔王に操られないで! 魔王は世界を征服しようとしているのよ!」
「そうです、父上! 愛しのグレタの言う通りです。 魔王の甘言に乗ってはいけません」
王様を必死で説得しようとする私とアンドリュー王子様。
王様は、私たちが続きを言うのを遮ってきたの。
「愚か者! さっき、私が『乙女ゲーム事件』でこの世界を神が見捨てたと言ったであろう。 過去、今の貴様らがしたことと同様のことが起こったのが原因じゃ。 だが、魔王様はこの世界を見捨てなかった。 その結果、この世界が安定しているのじゃ。もうよい! 此奴らには、何を言っても無駄だ。 衛兵、此奴らを地下牢に連れて行け! マーマレード公国とレッドカラント大国へ行くまで監禁する」
なんで、なんで、なんで、こうなるのよ!
私は、悪役回避のために行動しただけじゃない!
なんで、奴隷のような扱いになるのよ!
私が、悪役令嬢になったはずでしょ!
こんな現実、おかしいわよ!
「おい、お前。なに、作業の手を止めている? しっかり働けよ、このビッチ!」
「ビッチじゃないわよ!」
「はぁっ。お前なんか、ビッチで十分だ。 どんだけ、男を誑し込んだんだ?」
「ふざけないでよ! 私に、こんなことをしていいと思ってるの?」
そういうと、厳ついモブが私を鞭打ちしてきたの。
「痛いじゃない!」
「当たり前だ。痛くしているんだからな。この国の第三王女ダイアン様にしたことを忘れたのか。このビッチが」
そう言って、私のおなかを蹴り上げたの。
ものすごく痛いわ。
痛くて、何も言えないでいると調子に乗ったモブが、
「お前が、ダイアン様をならず者に襲わせたせいで、心の傷がいえないんだよ! あの時、魔王様が来て下さらなかったらどうなっていたことか...」
「あぁ、あの人の攻略対象たちに手を出そうとした淫乱ね。そうなって、当然じゃない。私に感謝して欲しいわ」
私は、健気に痛さを耐えて正しいことを言ってあげた。
そしたら、モブは怒りに燃えた顔して私の美しい顔を何度も踏みつけてきたの。
やだ、意識が遠くなってきた。
今すぐ助けて、私の攻略対象たち....あなたたちを本当に愛してるのは私だけなのよ。
読んで下さり、ありがとうございました。