プロローグ
あの時と同じような暖かな空が広がっている。
透き通り、手を伸ばせば届きそうで届かない程の空。
校庭に両手を伸ばし鎮座する桜を駿馬のような風が大きく揺らしている。
下校する生徒たちはランドセルを揺らしながらいそいそと帰っていく。
私はその背中に笑顔で手を振り続けていた。
学校に残っているヒトはほとんどいない。
とんと背中に何かが当たる。
恐る恐る後ろを振り向く。
そこにはひと際身体の小さい生徒が太陽のような笑顔を見せていた。
「アイ先生」
その笑顔に私も思わず笑みがこぼれる。
「怜くん、今日は放課後子ども教室の日ですよね」
「うん、終わったらお父さんが迎えに来てくれるんだ」
私は屈むと怜くんの瞳を見つめる。
「お勉強、頑張りましょうね。怜くんは一年生です。色々と『初めて』ではあると思いますが、何事も始めの一歩が肝心ですから」
すると、怜くんは彼らしくないことを言い始めた。
「『ヒトはAIを常に上回らなくてはならない。出来ずとも、上回ろうという努力は絶対に必要だ』」
胸を張って自慢げに私を見つめる。しばらく反応せずにただただ微笑んでいると、決まりが悪そうにはにかんだ。
「あ、今のはお父さんがいつも言ってるんだ」
「怜くんのお父様は素晴らしいことをおっしゃいますね」