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クイック・クックとマクベアー

 


「マクベアーですか」

「違うっクマベアー!」

「はい。クマベアーですね」

 え!?

 あ!?

 ハメラレタ!?

「マクベアーなのにぃ」

「えー。クマベアーって言ったじゃないですか」

 金色の髪、メタリックシルバーの瞳。目の前にいるのはクイック・クックという名の料理人見習いだ。(リア充上司様のところの)

 とりあえず、メタリックカラーの目はこわい。

 クイック・クックの来訪理由は小麦ちゃんの食用粉の評価査定である。

「給料アップ!?」と叫ぶ私にヤツは静かに「ない」と断言した。

「品質が低すぎるし、我々も練習ばかりしているわけでもない。だからと言って作った食品を無駄にすべきではない。見習いの仕事には良質の味を知り、舌を鍛えることも含まれている。品質が低いのは致命的だ」

 そーいえばリア充上司様のとこにいた三日間はやたらごはん美味しかったなぁ。

「ワタシが提供できるものは、窯埋め壷とこの岩塩だな。前回分と同じ鳴き粉と考えて持ってこれたものだがな。あと、三食分の弁当はおまけだよ」

 塩より、食器とか調理器具がいい。

「ただ、この仕切りの内側にいるコグマを譲ってくれるなら食器とか調理器具とか調味料などを融通しよう!」

 揺らがなかったとは言えない。

 ただ、そのあとヤツはコグマの調理法とコグマがどれほど脂がのっていて旨いかを語り続ける。

 私のもふもふを喰うな!

「飼うんだ?」

「え」

 メタリックシルバーが私を見てる。

「予算カツカツだと聞いた。この子の食事は準備できるんだ?」

 とっさに言葉を返せない。

 この子は野ねずみたちやフクロウ、ノンカンさんとは違う。

 小麦ちゃんも含めて彼らは自分で食事をしている。私は毛繕いしたり、撫でたり、愛でたり、お願いごとをしたりする。そんな関係だ。

 ん?

 あらためて思い返すとなにかおかしい?

 私が彼らの自活力に依存しすぎた飼い主なんだろう。でも、飼い主って考え方は違和感あるしなぁ。家族?

 うん。家族。

「なんとかなると言うのは甘い考え。これからもっと成長し、食事は必要で、あんたとの関係性が安定していない状況で管理に手間ヒマと資金がかかると言う現実は見るべき」

 納得はできる。はっきりと赤字となる未来しか見えない。それでも、私はマクベアーを引き渡したくない。

「引き渡したら食べるんでしょ?」

「美味しいよ?」

 マクベアーは私に慣れていない。

 私もマクベアーにまだ慣れていない。

「私は弱いから」

「クマベアーを制御できないワケだろ」

 弱いモノは強いものに従う。すごくわかりやすいルール。

 私はマクベアーより弱く、マクベアーの推定家族が殺された時にそこにいた存在で。

 思い出せば、ほんのりと暗い気持ちにかられる。

 もちろん、リア獣上司様は私を強くあれと善意で鍛えようとしてくれたんだと思う。

 でも、ハード過ぎた。

 凶悪もふ上司様サイコー。


『あぎゃっ』

 あの日、リア獣上司様の訪れは唐突だった。

 粉砕機を覗き込もうとするリア獣上司様を必死に止める。

 危ないっ。

 あぎゃあぎゃとなにかを訴える声は言語翻訳されはせず、私は頭を揺らして通訳者を求める。

 フクロウたちは遠巻き。ノンカンさんは見当たらない。

「そろそろ、戦闘訓練やってみるか、だってさ。はっきり言ってまだ早いけどな」

 おっさんが言う。付け足して有意義でないとは言わない。と続けられた。

 移動はパステルカラーの木馬に乗って、だった。

 うん。メルヘン。

 木馬の頭部にリア獣上司様が鎮座。おっさんの説明によると目的地へと操縦しているらしい。

「あー、白の領域かぁ」

 おっさんが赤い荒野を見回しながらこぼす。

 聞けば、地図の描けない魔獣や魔物の無法地帯だと言われた。

 わからない顔をしていたからかおっさんが続けてくれた。

「魔物に襲撃される。もちろん撃破する。追うにしても逃げるにしても位置把握があまくなるな」

 あー。それはわかるかも。怖いもんね。

 周囲見てる余裕かぁ。

「闘いの勢いで地形変わるのはありがちだし、偽装工作をする奴らもいるんだよ」

 めんどくさくない?

「いろいろな勢力の奴らが表沙汰にできない喧嘩をするのもこの領域系だなぁ。俺も若い頃に遊んだもんさ」

 フッとカッコつけるおっさん。

 つまり戦闘狂の遊び場?

『あぎゃっ!』

 リア獣上司様の声にそちらを見れば、大きな影がそこに伸びていた。

 それは小麦ちゃんくらいの大きさだろうか、小麦ちゃんには感じない恐怖感で身じろぎひとつできない。視線ひとつずらせない。

 パステルカラーの木馬がどこまでも違和感を煽る。

『あぎゃっ!』

 木馬の頭部を蹴ったリア獣上司様がモフっとしたその腕を振るう。いや、もうそれしかわからなかった。

 ふりそそぐ液体を避けることもできない。

 だけど、動けなかった身体が動くようになった。

 地面に伏してむせる。それだけだけど、動けた。

 地響きをたてて倒れたのだろう魔獣の方から『あぎゃぁ』と不思議そうなリア獣上司様の声が聞こえてくる。

「やり過ぎなんだよ。無理に決まってんだろうが」

 おっさんの声。

 この時だけは本気でおっさんに感謝した。


 もちろん、あのまま気を失えるほどか弱くなかった私はリア獣上司様がさばいた同種の魔獣(ただし小型)と向き合わされた。

 おっさんが「無理すんなよ。村の自治警備隊兵なら四人がかり罠付きで倒せるか倒せないかの相手だ。一応町の警備兵なら三人がかりでなんとかで、魔法使いなら腕によっては一発だ」とむっちゃ参考にならない参考情報を語ってくれた。

 つまり、侵略者はコイツよりつよいと考えるべきだと。

 無茶くね?

 そして、私は意外にモフッた感触に包まれて意識を失った。……圧死する。

 そう。

 仕切りの中にはアレより小型の個体マクベアーたん。

 リア獣上司様が訓練用に確保してくださった個体がいる。

 正直、無理だから!

 そんな言葉しか出てこない。

 気配を感じたのか仕切りの内側で唸る低い音。

 恨まれてるかな。

 あのもふもふを堪能できるようになるのかな?

「大丈夫。食用に出したりしないから」

「採算、取れないのに?」

 クイック・クックがウザい。いや、現実だけど。





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