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人魚たちとエステっぽいもの

 人魚な美少女から美女が笑いさざめき美しい空間を彩っている。彼女らはクイック・クックの妹分たちだ。


「ヤダ。領主様。御髪に櫛通してらっしゃいます?」

「洗顔後の保湿作業は? 陸上ケアでは大切なはずですわよね」

「身体造りは大切ですけど、やはり美しい流線美はどの種族でも有用でしてよ?」


 彼女たちは姦しい。そして、耳が痛い。




 温泉通いの最中に地底湖ゾーンは存在する。そこをテリトリーとしてるのは人魚たち。水中で水棲生物の栽培養殖トラップ管理を担当してくれている。真珠を抱く貝やそのまま武器に転用できそうな角を持つ魚の飼育成果はすごいの一言だ。

 そして気づけばあれよあれよという間に剥かれて「この水草のオイルが肌の保湿にイイのだ」「この実をすりつぶしたもので肌を洗えば老廃物がよく落ちる」だの、「このお茶は発汗作用があって体内魔力循環も上がりますのよ」とかいがいしく世話された。

 理由はひとえに「ワタクシたちの上に立つ方ですもの。美しくあっていただかないと!」ずぼらなど認めないとにっこり微笑まれたのである。(怖い)

 とりあえず、服がポイ捨てされるのだけは阻止した。(彼女たちはあまり服を好まない)「貧乏くさくておしゃれじゃないわ」と口々に囀られても、実際まだまだ財源収支はマイナスなので否定できないっ。

 横でキマリさんが『よいぞ。もっとやるがよかろ』とか歌ってたのが人魚たちの行動の歯止めを外した部分はあるのだろう。でも、私は必要以上に着飾ることも装うこともしようとは思わない。

「それでは殿方の心を効率的に射止められませんわ」

 不思議そうに首をかしげる人魚たちにキマリさんが軽やかに笑いながら『おのこなぞ寄せずともよいが、美しくあるは心のゆとりぞ』と告げてブーイングを受けていた。彼女たちにとっては死活問題だと理解したキマリさんは素直に謝っていた。

 女性だけの種である彼女らは子づくりに異種の雄(交配可能種は限られる)を求める。子の父となる異種の雄は九割我が子を見ることなく母体の栄養となる。(このへんはノンカンさんと同じなのだけど、外見が人に近い彼女らの場合衝撃差が半端なさそうなので現場は見たくない)


 本当に雄を射止めることが死活問題なのだ。

 残った一割はと問えば、にっこりと彼女らは笑う。「必要な栄養を準備できるのなら、次の子の種にもなっていただけるでしょう?」あ、はい。だから強い侵入者だとあとくされも次の可能性も残せるんですね。何となく理解しました。後日討伐隊が組まれたとしてもここなら問題がない? あ、はい。その通りですね。


『カノコの髪は黒くてクセがなくて美しい。肌も、真面目に磨けばそれ、今のように美しい。毛玉どもを磨くもいいがもそっとカノコも磨け』

「そうですわ。領主さまはもう少し身だしなみを顧みられるべきです! 真夏に毛皮の首巻とか妙なこだわりを発揮なさるならその系統で攻めるとか! 中途半端なのです!」


 力いっぱい人魚たちに否定される。

 かわいい装いが嫌いなわけじゃないし、考えるのは好きだと思う。ただ、その対象を自分に据えた途端拒否感が沸き上がることが止められないのだ。


「領主様、甘い水ブドウはいかがですかしら?」

「温かいお茶を淹れなおしましょうね」

「邪魔にならぬよう御髪を編ませていただきますね。型崩れなすったらいつでもいらしてくださいね」


 自力では直せない髪型にされるのかとぞくりとする。

 同時にやわらかく話題が逸れていってぽかんとする。


「ごめんなさい。言いすぎましたわ。でも、わたくし悪いとは思いませんわ。よい素材は磨くべきなのですもの!」


 一番、燃え猛る彼女を周りが微苦笑しつつも止めることはない。


「私共は場所と機会をくださった魔王様に、そして領主様に感謝しております。ご気分を害して追い出されたいなどとは思いません。若い者の浅慮がいきすぎましたらおっしゃってくださいませ」


 なんと伝えればいいのか。


「気分は害していないの。ただ、自分が装うことが、考えられないだけ」

「いけません! それはいけません! イイですか領主さま、それではおいしいご飯にありつけませんわ!」

「よい殿方を捕まえられません、ですよ。あなた、正直すぎだわ」


 差し出されたお茶を受け取りながら私はやっぱりぽかんとして様子を眺めるだけ。

 この空気はどこか心地よかった。

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