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日常と目標を振り返って目をそらす

 

 吊り橋守り領主の一日。


 まず夢の中でダンコアちゃんとダンマスちゃんと打ち合わせと歓談。

 起きたら着替えて破砕機や動力系に魔力を叩き込む。

 厨房で作り置かれてある朝ごはんを軽く食べてから小麦ちゃん達のブラッシングと蚤チェック。この時、ノンカンさんによる雑談報告を受ける。花が咲いたとか、マクベアーが蜂に刺されたとか。

 散策と書類をして魔力上げるための訓練か基礎体力づくりの時間。気がつけば昼時を過ぎているのでマグロちゃん達と戯れながらおやつ。

 そのあとは資料本読書と日常の日誌、翌日の予定づくり。

 橋むこうへ視察に行くなら午前中の予定を前倒しではじめておく。

 夕食後は温泉まで歩いて行って寛ぎ、また歩いて戻ったら疲れ果ててるから夢の中。

 そしてダンコアちゃんとダンマスちゃんと歓談。


 アレ? 休んでなくない?

 寝ている間もなんかしてない?

 体力魔力は回復するけど、心はすり減ってない?


『起きたか、カノコ!』


「私はカノコじゃないと伝えていると思うけど?」


 向日葵色のふわふわした蠍っぽいぬいぐるみが器用にコップをのせたお盆を運んでくる。ドアノブは高いだろうに器用なことである。

『ゲンジュウロッカー』に封じられることを選んだ異形さんは封じる時に本来の名前すらリア充上司様に拒否された。「その名をこの地で名乗ってはならない」と。


『我はそなたをカノコと解する。ならば我はカノコと共に在るだけよ』

 そっとこのカラダなら潰してしまうこともあるまいと聞こえた。

 喰ってたよね!?

 カノコちゃん喰ったよね!?(面倒くさいのでダンコアちゃんをカノコちゃんと心の中で呼称している)

 蠍っぽいぬいぐるみ存在は存外甲斐甲斐しく私の世話を焼く。人は脆く弱いからと呟くアンニュイなぬいぐるみの後ろ姿にやっぱり私は、でも、喰ったよね。とツッコミを入れたくなる。

 ふわふわとした向日葵色の目玉を持つ異形さんの本来の名前は陽を意味する言葉らしく私にはうまく聞き取れない音だった。

「あー、その意味だとうっざったいのが文句付けに来かねないから禁止な。嬢ちゃん、代わりの呼び名考えてそれでロックしちゃって」

 だから、私が呼び名を付けた。

 キマリさん。

 黄色い鞠のキマリさんだ。

 カノコちゃんに鞠を与えて遊ばせていたのを思い出したのか、キマリさんは嬉しそうだった。

 本来の姿は見上げるばかりで全体像がわからない巨体。リア充側近様に踏まれていた頭と思わしき部分は爬虫類のようだったけれど、その瞳はみっちりと苔が生えてるような不気味な柔らかさを見せていた。今の蠍っぽいぬいぐるみ姿はまるですべてがその目玉の材質のように思えて少し恐い。でも、同時にふわもこでついぎゅっと抱きしめたい欲求にかられるのだ。


『プティミーアを起こす役割を私から奪うとはっ』


 なぜかゲンジュウロッカーでロックされた前任者ソーガヨーカイ(見知った文字で『蒼月葉海』と書くらしいと教わった)改めソーミがキマリさんに絡み、得意げなキマリさんにせせら笑われ口惜しがるという光景が何度も繰り広げられていて鬱陶しい。

 そう、奴は再生用の魔力がまだ腕一本分しかなく、恋敵が現れた以上大人しくもしていられないし、私に名付けしてもらって鎖付けられたいとかわけのわからないことを主張したのだ。

 そしてリア充上司様は「くさってんなー。嬢ちゃん、かちーんと管理下に縛ってしまえ」と奴の後押しをした。

 おかげでやたら賑やかなことになっているのだけど、ソーミは意外にも事務実務に長けていてピヨット君の補佐をするどころか、あっという間にピヨット君を補佐にしてしまった。

 確かに私の作業は減った。ソーミのまとめた報告書は私がよりわかりやすいようにと日々改良されていたし、体力や魔力を高める訓練は確実に身についてきていた。たぶん、クイック・クックによる美味しい食事も効果を発揮していると思う。

 食料品目の充実って大事なことなんだろう。

 キマリさんは特に何をするでなく私のそばにいる。


『すべきことをなすのみであろ。カノコ』


 なすべきことと言えば。


「謎の冬に向けての食料確保!」


 住人数増えたんだから必要だよね!



 なにかしてない時間はないかもしれない。

 その時間は私の心を確実に満たしてくれているんだ。


 私は、そんなに欠けていたのだろうか?


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