予定と番狂わせは不安しかうまない
冬眠。
沼のカエルは外は冬眠、迷宮内は温度次第だけど動きが鈍くはなるらしい。
マシュポゥは外部にいる連中は核を地中に埋めて越冬するらしい。もふ魔獣たちも基本は巣穴にこもり寄り添って暖をとるらしい。(たまに食糧調達に狩りに出るらしいが)迷宮内は動きが鈍くとも活動可能環境なので大丈夫らしい。
ノンカンさんに聞けば虫系は外を棲息域にしている場合四割が食糧不足で食糧になるので生存防衛には問題ありませんと解説された。
迷宮内は温度があまり変わらないので大丈夫だとか。(死んでも防衛はすると告げられたので生きて。と頼み込んだ)ダンコアちゃんとダンマスちゃんがエリアで四季作るかなんて聞いてくるから作ってみるのに必要な魔力量が半端なく多くて承認できない案件だった。
「というわけで、魔力量魔力質を上げるレッスンを実行していく!」
そう、私の手には『はじめての魔力』といううすい本が握られていた。
魔力をギリギリまで使う。
魔力の動きをしっかりと意識して精度を上げる。
放出の流れを自身で自覚する。
魔力の上げ方の手法の基本としてはその三点が重要らしい。隅の方に小さく例外もある。というただし書が地味に目を引く。
「ピヨット君」
「なんですか?」
「魔力上げの例外ってなに?」
「薬物使用、第三者による強制的な擬似魔力解放、異界渡りで生じる存在誤差による魔力変動。あと、魔力を持たない存在である場合でしたら外部魔力槽の拡張があげられますね」
んー。
「薬物使用かぁ」
「他にもたとえ出しましたよね?」
だって難しいんだもん。
私はどうかと思えば、異界渡りの存在誤差と薬物使用が当てはまるのかなと思う。魔力回復薬も使ってるし?
私が生まれた世界では魔法や異能は知られるところには出てこなかった。おとぎ話や創作の中でだけのことだった。たとえ、あったとしても私からはひどく遠かったんだと思う。
無関心な家庭。私は家のことを何も知らなかったし、私はできないものだった。無関心だったのは私もだと思う。そう、私は私にも無関心で、ただ能動的に死を選ぶ勇気などないまま、逃げることもできないだけだった。違うな。逃げるという発想もなかった。そんな能動的な感情はなかった。
諦めたまま歩いていたら知らない場所で荒く生臭い気配に追われていた。
ただ、死にたくなかった。帰りたいとも思わず、ただ死にたくなかった。生死なんてどうでもいいと思っていたのに、私は能動的にただ逃げた。逃げ方なんて理解してないままに。
生きていたいと理由なんて見えないのに死にたくなかった。走ったから激しい動きに合わない靴が踵を傷つけた。痛みがより走ることを促したのだと思う。気がつけばリア充上司様に拾いあげられていた。
言葉がわかるようになったのも居場所とする事を与えられたのもはじめはただ死にたくなかっただけ。
きっと彼らも私にとっては理解できない敵なんだと思っていた。
私には、敵しかいないと思っていたから。
わからない。わかりたくない。
優しさは効果的に裏切るための撒き餌のようなものでしょう?
私は私に優しさをむけられることを信じることができない。被害妄想だと知っている。でも、私が感じとれた優しさはいつだってひっくり返されてきたから。本当はまだきっとこわい。
それに、ここでは『できる』から求められているの。
だから、だから私も甘い日常を受け入れられる。
「おなかすいたー」
「難しくなんかないんですよ」
ピヨット君がブツブツと関連書籍を積んでいく。いや、私が読んでるの絵本だから。難易度上げられても困るんだよ?
「ヘコむなぁ」
元々、きちんと形にできる予定は三年間。
一年目は知る事にあてるつもりだったはずだと思ってる。ころころと転がっていった現状に私が追いついていないままなのが一番の難点。そんなタイミングで現れた前任者が私は一番こわい。
ぜんぶもっていくのかなぁ
そんなじわりとした恐怖と諦めが浸みだしてくる。
侵食されていく恐怖は馴染み深くやる気を削いでいく。
「まったく、もう。……暑いから視察行きたくないんでしょう? 小麦たちも最近来ませんしね」
館のあたりは高い場所にあるからかあまり気温は上がらない。しかし地上部は高湿度高気温真っ盛りの夏だった。
冬はまだ遠いけど、きっとあっという間にやってくるに違いない。