落下と敵襲?
ぎゃあぎゃあと響く鳴き声は鳥だろうか。目を開けてみれば空は青くそして緑の縁取りがされていた。
「落ちた?」
ふるりと頭を振って周囲を確認しようとしたら動けなかった。
「は?」
どこか怪我をして動けないのかというには身体に痛みはなく、おかしい。
『あぎゃっ!!』
鳴き声が近い……ってリア獣上司様!?
フッと体を襲う浮遊感即座の落下、べちゃりと粘る感触と片手を何かに引かれる圧迫感。ふり仰げば一本の蔓が手首に巻きつき私を引き揚げようとしていた。
「は?」
わけがわからない。
頭を振ればばさりと蔓の束が落ちた。もしかして動けなかったのは蔓で留められていたから?
『ぎゃーーっ』
鳴き声が近いことに驚いた私は振り返りざま魔力を打ち出した。
寝泊まりしている場所から見える風景は薄い雲海の下に広がる緑。ところどころに同じような岩山がそびえている。そんな風景だった。
ふざけているくらい侵入者を排除した場所。外へつながる階段は外周に付属していたけれど、張りつくような薄さにまばらな幅と高さ、踏み外せば雲海に沈む一択で近づく気にもなれなかった。
小麦ちゃんの背に掴まって自由にさせれば確かに外を走ってた。ただそれは周りを見ることには実に不向きで何もかもが現実味を帯びていなかった。
「そういう事情であるか」
ならばと引っ掴まれて青空の旅人になる状況もまた現実味があるかと問われればないと答えたい。
住まいより幾分高度が低いらしい岩山におろしてもらった時には酔い倒した私は嘔吐の住人と化した。
「うわぁ。父。ダメじゃないですか。領主様か弱い内臓機能なんですから!」
途中から聞こえたピヨット君の声に意識が吐き気から苛立ちに切り替わる。
「同じヒト分類だが魔王様は平気であるぞ?」
「そこと一緒にしちゃダメですよー。我らが魔王様ですからね!」
「ああ、ひよたちの魔王様だものな」
良いフォローだと思うけれどなんか微妙に納得しにくいっ。結局リア充上司様賞賛で終わってるし!
ついでにピヨット君と対話したところ気にせずにいて大丈夫というあっけらかんとした答えが返ってきた。ノリは「言ったじゃないですか。アイツら細かいこと考えませーん」で、武闘派脳筋をやたらバカにしてるフシがあるピヨット君じゃもしかして当てにならないのではないかと思わされたのだ。そう、そこはかとなくそれダメだろ感である。
ひよ様の背に乗ってピヨット君のガイドで空をゆく。おそらく地上二十メートルというところだろうか。
吊り橋のかかる谷川から北への山はそこそこの標高が有り下から見上げた時も思ったけれど険しい。
「境界の防衛はまず地形で行うものですからね」
谷川と凶悪水棲生物と虫と魔力生命力吸取という凶悪仕様。もちろん強さを誇る者は気にせず乗り越えてくるらしい。たとえばあの変態勇者とか。
入り口からの山越えは多くの種にとって難易度は高いらしい。上空もまた風が強かったり本部の武闘派脳筋が遊んでたりするので侵入者はおもちゃになるらしい。(ただ迷い込んだ生き物はスルーされるらしいが基準は不明)
「小麦ちゃんたちは?」
おもちゃにされていじめられる?
「あの幼な子らは先任吊り橋守の眷属ゆえ蜘蛛女史と同じ立場である」
嫌だなと思っていたら幼な子は保護対象であるそうだ。脳筋戦闘狂の犠牲にはできないとピヨット君も保護姿勢。ばとる、ジャンキーとは……。
ああ、それにしてもひよ様お優しい。そしてもふもふ。しーあーわーせぇえええ。
ぎゃあぎゃあとひよ様より小さくそれでも私より大きな鳥たちが下の森から飛び出してきた。
攻撃的なわけではなく、すぐそばで数回旋回しただけで森に帰っていく。
「吊り橋守に挨拶しにきたようである」
なにそれ、かわいい!
「支配者に挨拶は当然だと思いますよ?」
あの種族のリーダー群だろうとひよ様とピヨット君が解説してくれた。
「もっと早くにこんなふうに回るべきだった?」
素朴な疑問に数秒沈黙があった。
「いえ、領主様が軽んじられないだけの魔力最低限の戦闘力、そして適度なコネを身につけられた今だからこそのタイミングだと思いますよ」
あいつら脳筋戦闘狂だしとピヨット君が毒づく。そういえば本部でうまくいってないって言ってたっけ。
そっと目をそらした先には緑の中に赤や黄色の彩り。花だろうか?
和むよね。綺麗かわいいって……、
「領主様、身を乗り出し過ぎですよ……あ」
あ?