リア充上司様と夏
温泉も出来て高機能炉も入ってなんとなく把握できない住人も増えていく。武器も道具も生産可能になった。ささやかなものからじわじわ増えていくだろう。
目の細かいザルとかを頼んでみたら「少し時間がかかる」って言われたけどね。
戦闘訓練もしている。たぶん、当初よりできることは増えた。足りないことは多くても少しは誰かに頼っていいって思えてきてる。
理由はある。
出会った誰もが私と違い過ぎたから。
違いすぎて、知っていくからこわくてこわくない。
小麦ちゃんのブラッシングをしながらそんなことを考える。首元でダンマスちゃんがもふっとしている。私が守ってあげると決めたコたち。
物理的には彼らの方が強いのかもしれない。
それでも私が守りたいと思ったコたち。
夢の中で迷宮を改変すれば、翌朝それにそった変化が起こっていた。
そのコストは魔力。
その関係で些細なことしかまだできない。本番は侵入者が来るようになってからだろう。
ところで雨期が終わった途端にじめっと暑い。
温泉とか地下水と地熱と鍛冶場とカエル池で湿度が高いらしい。時々、コウセツが凍らせたりして気温を下げているみたいだけど、もしかしてそれも湿度の元になってる気がして思考力下がる。
「暑いです!」
「……前任者が火属性の方でしたので、あの地区は暑いことを尊びます。あぎゃさんもその前任者に親愛を抱いていたので暑い地区です。森林地帯が多いのは魔王様の趣味です。そしてもうじき暑さの本番です」
リア充側近様が丁寧にご教授下さいました。
首を傾げて「館は高度が高いですし、迷宮は地下ですからあまり気温影響は大きくないでしょう?」と言われても、じんわりした湿度が絡みついて暑いのだ。
報告ついでに愚痴って買い物にいそしむ。
小麦ちゃん粉に在庫はあるが増えた戦力は消費者になるのでどこまで納入できるか少し不安だし、暑いからか、小麦ちゃんたちの毛並みがいいとは言えなくなっているのだ。
黒ちゃんがいるからサビ猫ちゃんに卸す粉に困っていないってくらいだ。
物納する種類は少し増えた。加工品とか採取物とか。蜂蜜酒とか。
「そう言えば、橋むこう点検に行っているか」
リア充上司様が通りすがりに聞いてきた。
チョコミント味だというパイの花をぶち千切るように摘んで私に持たせる。「やる」と言われて「ありがとうございます」と応える。
橋むこうの点検?
わからない顔をしていたのがわかったのだろう。
「雨期と高湿期を経ると道が消えるんだよ。橋の位置は変わらないが、誰も使わない道は消えるからな。月に一、二度来てた視察がこの雨期にはマシュポゥの異常繁殖もあったしな」
ついでにマグレッチェの災禍の始末も人里ではあったから落ちた橋の確認まではできなかった?
ロリコンもいためつけたし。
「これから夏季に入るから乾くことを嫌がる植物が異常繁殖するんだ」
リア充上司様が嬉しそうに得意げに言う。
「イバラのように棘の強いものの下に大量に水分を保持していく苔類が繁殖して虫や小動物が巣や道を作って、マシュポゥが警備するという場所が広がっていくんだ」
完璧な防衛線だと自慢げなのだが。
「ダンマスちゃんとダンコアちゃんが飢えるんで侵入者なしはちょっと……」
住人の魔力循環で多少は過ごせるらしいけれど、物足りなくはあるらしい。
「まぁ、橋が戻っても春までは侵入者がなくてもおかしくはない状況だしな。あえて誘い込みたいなら適度に伐採を指示する必要があるぞ」
庭の花や枝を切ってリア充上司様は私に手渡す。それはお菓子な植物達。大きなガクに包まれた蕾は少し乾燥させれば良いお茶になるとか、カエルミルクと合わせると夜寝つきが良くなるとか色々解説してくれる。
「魔王様は世界を支配したいとか思うんですか?」
そんなことを聞いたのは気まぐれだった。
「んな面倒なこと考えたこともねぇよ」
庭をいじって時々遊びに出てかわいい自分の女と過ごすことができればいいとリア充上司様がリア充なのか枯れてるのかわからないことを言う。横でリア充側近様が嬉しそうにお茶を淹れて、私に押し付けられた荷物を袋詰めして返してくれる。
「私に何を望んでるんですか?」
「橋の管理人だな。別に防衛だってあぎゃ達がいるから必須じゃない」
わからない。不満だ。でも、私は守りたいと思ってる。
「許されている範囲で好きに生きればいい。聞かれれば答えてやれることは答えよう」
リア充上司様がにっこりと笑う。
「俺にとってなによりの娯楽だからな」