温泉と高機能炉
「ポルトガッシュをカエル汁に半日漬け込み、その後炎天下に三日吊るし、水分が抜けてきたところを陰干し四日。イイ感じに干からびたころにまるままローストしてから細かく混ぜて皿に盛ればポルトガッシュの皿焼きの完成だ!」
「焼いてから混ぜるの!?」
リア充上司様おススメのポルトガッシュ料理は一度干からびさせる上にやたら日数のかかる調理法だった。
クイック・クックに実行してもらったその料理は確かに美味しくはあった。
その時に使った皿は小麦ちゃん粉を練ったもので作った皿で、皿まで食べれる焼き物になっている。
それが今回温泉に持ち込んだお弁当である。暑い。濃い。合わない。爽やかさが欲しい。
カエル汁っていうのは煮詰めればチーズのような食感と風味。ポルトガッシュは芋卵味と食感。緑の生きたブロッコリー羊のようなブツの料理は一見、グリーングラタンである。美味しい。だけど、今じゃない。
なにこの空気の籠りっぷりは。
すごく息苦しい。
温泉から出ると外も暑い。鍛冶場周りでガドヴィンのオジさま方が排熱運用を話しあっていた。
排熱運用……。
お湯を熱するのに鍛冶場の熱を使ってるでもないらしい。意味がわからない。もうろうと彼らの会話に耳を傾けておく。
ヒュッと冷風が吹く。
コウセツの魔法……。
吹雪いた。
吹雪いたよ!
さっぶいよ!
風邪ひくわ!!
と風呂に駆け戻った。
熱気の去った屋内温泉は外気の涼やかさと湯の熱さがちょうど良い。
「あ。極楽」
湯船でグッと腕を指を伸ばす。マクベアーがいた。
「なぜ、いる!?」
まぁ、いいか。
随分と成長した毛皮に体をもたれさせて雪男の吹雪でけぶっていた湯気が消えて見えるようになった天井を見上げた。
丸太を組んだ天井。壁面に通気孔、というかガン開きである。
広いなと思う。
ひやっとほっこりと心地よい。
マクベアーと一緒にお湯から上がるとサビ猫ちゃんが可愛いコートを着て立っていた。
「搬入ですよ」
温泉場宴会場の傍を少しのぼると小屋がありそれが鍛冶場の本拠地らしい。
手前の鍛冶場と奥の鍛冶場では作業内容を分けるのだとか。侵入者による被害も考慮しているらしい。
「物好きはどこにでもいますからね」
坂道は意外と狭くてのぼりにくかった。
「流れを凍らせてるんですね」
「おう。普段はきちんと流れてるぞ」
「侵入者対策ですか」
「あんたらの商会は大丈夫だろうがなんだって商売だろ?」
オジさまとサビ猫ちゃんが笑い合う。
こういう風に商談って進めるんだなぁ。
足もとを見下ろせば確かに薄っすら氷がはっていた。妙にキラキラした石があるのか、氷が反射してるのか。
「試し打ちの屑はこの流れで廃棄しとるから嬢ちゃん、転ばんようにな」
よく見たら打ち損じなのか包丁の刃のようなものも見えた。
危ない。
聞くと高機能炉を設置予定の鍛冶場にはこのせせらぎの道を上流に向かう必要があるのだと。今回凍っているのが私用の対策だとのことだった。
ついでにしげみにも刃物の残骸を仕込んであるらしく入り込まないようにと注意された。
「高機能炉が設置されれば質の良いインゴットも作れるし、廃棄屑を撒いて魔力撹拌も進む」
楽しみだとガドヴィンのオジさま方が含み笑いをしている。揃って。
「最初はやはり農具に訓練用武器か」
そう言いながら視線は荷物を持ってついて来ているヴィガたちとコウセツに向けられている。
作るのはコウセツなんだろうか?
確かにガドヴィンのオジさま方は客分な訳だからコウセツか、ヴィガたちか、私か(それだけはないと思うけど)新たにちゃんと人員を入れるしかない。
「宝箱に入れるガラクタも作って欲しいな。鍋とかフォークとかかわいい重石とか」
あと日常小道具とか雑貨は欲しいよね。幅が広がるし。
「オモシ?」
「宝箱に詰めれるくらいでマクベアーの彫像とか、マシュポゥの彫像とかさ」
渋い表情を浮かべているみんながいる。
え?
おかしい?
熊の置物とかわかりやすいガラクタだよね?
「嬢ちゃん」
「え?」
「つまりスタチュー軍をつくって迎撃要員と訓練要員を増やそうって策だな」
はい?
わからないでいるとサビ猫ちゃんが魔力に長時間晒された形あるものは動くようになるんですよ。と教えてくれた。リア充上司様の土地だからだそうだ。
戦力?
薄暗い部屋。侵入者が持つ照明。警戒しつつ開ける宝箱。箱いっぱいの小さなマクベアーがワラワラと這い出してきて侵入者を攻撃。箱に戻っていく?
「ヤダ! 怖いと思うんだけど!」